声を出して 19
「スンジョ君、まだ行かないの?」
「親父の会社に寄ってから行くから、先に行っていてくれ。」
「一人でドレスや指輪を選ぶの?」
「一緒に選ぶから。」
本当に一緒に選んでくれるのか怪しい気もするけど、スンジョ君の方から行くと言ってくれたから、きっと大丈夫だと思うけど・・・・
「不安だな・・・・」
スンジョの部屋のドアを閉める時に、ぼそりとハニが言った一言がスンジョの耳に入った。
無意識に言った言葉だったけど、スンジョはその言葉に胸がズキンと痛んだ。
ハニの片想いが実を結んだのに、まだ何が不安なのだろう。
オレの彼女になりたがったハニだから、オレと結婚する事もその先にあったはずなのに、何が不安なのだろうと思う。
たった一つあるとすれば、それはオレがハニと待ち合わせをした場所に行かないのではないかという事だろう。
スンジョは上着を持って立ち上がると、階段をゆっくりと降りているハニの肩を後ろから叩いた。
「おい。」
「あっ!スンジョ君・・・・・」
「ちゃんと待っていろよ。待ち合わせ場所は、バーガーショップの前だぞ。親父の会社関係の結婚式に招待する人のリストのチェックに行くだけだ。少し遅れるかもしれないけど、絶対行くから・・・・オレが行かないと思っているのだろ。」
「疑うわけじゃないけど・・・・・思っていました。」
「事実はその通りだけどな。」
「その通りって・・・・・」
スンジョはハニをからかう事を結婚しても止められそうもないと思った。
『嘘だよ。オレが結婚したいと言ったことは事実だ。ただ思ったよりも早く、お袋が結婚式を決めて来たから焦ってはいるけど、ハニを不安がらせるオレでゴメン。』
何て事は間違っても、ハニには言わないし勿論お袋にも他の誰にも言わない。
「お前の気持ちは知らないが、まだ学生のうちに結婚する事になって、逃げだしたい気持ちはある。男として一生この女性(ひと)を守って行けるのだろうかという責任が男にはあるからな。」
「大丈夫だよ。スンジョ君なら絶対に大丈夫だから。」
ハニが無条件にオレを信じているから、その気持ちから逃げ出したい時もある。
ハニが思うほど、オレは完璧な人間ではない。
完璧な人間ではないから、他人の信頼に応えられない不安になった時は、ハニが傍にいてくれればオレは救われるかもしれない。
21歳なのに、子供みたいな笑顔でオレを見るハニの顔は、オレにとっては一番大切なものかもしれない。
こんなオレはお前に言いたい事も言えない、普通の人なら声を出して言えることも、声に出して言えないけど、オレはお前を一生大切にするよ。
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