ハニー

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声を出して 65

コロコロと転がる指輪に、スンジョ君はきっと怒っているだろうなと思う気持ちで緊張が一気に解けて、私はやっと手の震えが止まった。スチャンの椅子の下で転がりが止まった指輪をミナとジュリが受け取ると、指輪の交換が再開する事が出来た。「ハニ・・落ち着いてね。」こんな時に親友が介添人になってくれていて良かったと思ったのは、ハニだけではなくスンジョも同じだった。もう大丈夫。だって、二度も同じ失敗をしたらスンジョ君が怒るから。指輪をはめながら、ハニはふとウンジョから聞いたお祝いの言葉を思い出した。「私の事、もうずっと前から好きだったくせに。」ビクンとわずかに動いたスンジョの身体がハニにもその事が図星だったと判ると、何か初めてスンジョを動揺させたことが嬉しくなった。「ずるいよ・・・眠っている時にキスをするのは。ペンションに行った時に二度目のキスだったんだよね。」「な・・・・」面白い。スンジョ君が私をからかうのが面白いと思うのと同じ。それなら、もっとスンジョ君に意地悪をしてみよう。ハニはニヤッといたずらっ子のような顔になると、両手でスンジョの頬を挟んでキスをした。目を丸くしているスンジョの目を、逸らすことなくしっかりと合わせてフフッと笑うと呟いた。「ざまぁみろ・・・ベーだ・・・・・」スンジョだけじゃなく、二人を見ていた人たちからも笑いと歓声が沸き上がった。

声を出して 64

ギョンスの合図で、正面のドアが静かに開いてギドンと腕を組んで立っているハニが姿を現した。「大きな拍手で迎えてください!!」いつも大きな声のギョンスは、その場を盛り上げる為にさらに大きな声で言った。頬を紅潮させたハニが、部屋に一歩近づいて視線を少し下に向けて小さく息を吐き、会場の中に入って来た。スンジョはハニのドレス姿は試着の時に見たきりで、その時に撮った記念の写真も前撮りの写真も一度も見なかった。ドアが開いた瞬間、花嫁のメイクとセットされたヘアスタイルのせいか、そこだけが一段と明るい光が刺し込んだように見えた。声に出して一生言わないだろうと思うが、ダイヤよりもどんな宝石よりもハニが眩しいくらいに綺麗に輝いて見えた。こんな事をハニに言ったら、きっと大喜びをしないだろう。なぜなら、オレがハニに綺麗だとか褒める事は今まで言った事が無いし、しない事を判っているから。完璧にこの式を進行する自信はオレにはあるが、ハニにはきっと完璧にする事が出来ないし、完璧にしたらオ・ハニではなくなる。オレはハニがどこかでハニらしく、何かを仕出かしてくれる事を予測しているが、どこでハニが何かをするかまでは予測できない。刺激的な毎日を約束してくれているハニだから、『オレが喜ぶような刺激をしてくれよ』と言ってやりたい。「スンジョ君、ハニをよろしく・・・」「はい、お義父さん。」意外とすんなりとスンジョがギドンを『お義父さん』と言うと、ハニは嬉しそうに微笑んだ。その時スンジョが何を心で思っていたのか、ハニは知らないし知ることはない。≪バーカ、オレがおじさんをお義父さんと言っただけで嬉しそうな顔をするな≫そんな事を言ってハニをからかってみたい気もするけど、目の前にいるハニはオレが初めて見るハニだった。今日からコイツはオレと一緒に人生を歩いて行く。良い所も悪い所も、病気の時も健康な時も年老いてからも・・・・・そう、この誓いの言葉の様にオレはハニの全てを受け止めて行く覚悟はあった。「それでは指輪の交換です。新郎、新婦の手を取り指輪をはめてください。」多少の緊張はしているけれど、案外と簡単に指輪をはめる事が出来た。まぁ、このペク・スンジョが指輪ごときで失敗はしないし、まさか指輪をはめるのを失敗するヤツが・・・・・・ここにはいた・・・「おい・・・おい・・・それは右手だ・・・」案の定、ハニはスンジョの指に指輪をはめる時に、間違って右手を取った。左手を取って指輪を薬指にはめようとした時、まさかと思った事をハニは仕出かした。スンジョの薬指にはめそこなった指輪は、音を立てて床に落ちてコロコロと転がって行った。

声を出して 63

じゃあな・・・と言って、ウンジョは驚いているハニに手を振って花嫁控室を出て行った。結婚祝いにもらった嬉しい情報でも、一生に一度の今日のこの式は、そんな言葉でも緊張はする。「花嫁さん、お時間です。」「あ・・・はい・・・」ドッキン、ドッキン・・・・心臓が口から出そうというのが判るくらいに、心臓がドキドキとしていた。ドレス姿は試着の時に、一度だけスンジョに見てもらったが、その後は喧嘩をして記念写真の前撮りもしていなかった。実際には今日が初めてスンジョにメイクをしてドレスを着た自分を見てもらえる。「ハニ・・・・」目を潤ませたギドンが、娘とバージンロードを歩くために待っていた。「パパ・・・・」「ママとおばあちゃんに見せたかったな。」それはギドンだけじゃなくハニも同じだった。いくらグミが母親の代わりに、今日の日までの準備を一緒にしてくれても、自分を産んでくれた母親がいてくれたらよかったのにと思った。ドアの向こうからギョンスが『新婦が入場します・・・・』と言っている声が聞こえると、ウエディングマーチが演奏され始めた。「よろしいですか?」スタッフにそう声を掛けられると、ドアが静かに開いた。知っている人たちばかりでも、一斉に注目をされて一生に一度だけの事だと思うと、緊張をしているのかも判らなくなって来た。「ハニ、行くぞ・・・」「う・・・うん・・・」何かに挑むような、そんな父の掛けた言葉に、ハニは小さく頷いてそう応えた。

声を出して 62

ポツンと一人で花嫁控室にいると取り残されて寂しいというよりも、正面にあるデジタル時計の数字が式の開始が刻々と近づいて来るのがわかり、心臓がバクバクとして来た。さっきまでは、式が始める前に新婦を見に来た人で緊張はしていてもそれほどドキドキはしていなかった。キィッと言う音がして静かにドアが開くと、ウンジョがヒョコッと顔を覗かせた。「ウンジョ君!」「よぉ!」まだ小学生なのに、ハニに欠ける言葉や仕草が少しずつスンジョに似て来た。そんなウンジョにハニはニコッと笑うと、少し照れたように近づいて来た。「寂しがっていると思って来てやったよ。」「へへェ~イ、本当は退屈していたんでしょう!」図星なのか、少し顔を赤くしながら近くにあった椅子をハニの横に持って来て座った。「ハニが緊張していると思って、来てやったんだよ。」クスクス笑うハニに、ウンジョは妙に緊張した顔でボソッと囁いた。「お兄ちゃんが結婚することを決めたから、仕方がないけど・・・・・・今日からよろしくな・・・・」今までと変わらない生活でも、ウンジョなりにけじめをつけたのだろう。ハニも勿論その事は判っていた。「こちらこそ、よろしくね・・・・弟君。」「姉さんとまだ認めていないよ。」ウンジョのその一言が、冗談だという事は判っている。ペク家にお世話になってから、意地悪を言ってもそれはそれでまだ子供のいじめっ子のようなものだった。「もうすぐだな・・・・」「言わないでよぉ~緊張しているんだから。」「その緊張を忘れるくらいにお前が喜ぶ情報を、結婚祝いに教えてあげようか?」「良い事?」「耳を貸せよ・・・・」ウンジョはハニの耳に、結婚祝いと言う喜ぶ情報を囁いた。

声を出して 61

「え?」「赤ちゃんよ。」やだぁ~と言って恥ずかしがるハニの声が、廊下まで聞こえて来た。先生が結婚してもうすぐお母さんになる。驚いたのは結婚した相手があのジオ先生だという事。まぁ、私自身もスンジョ君と結婚する事を、みんなが驚いたのだからそれと一緒と言う事だよね。部屋のドアがノックされて、ホテル従業員がミナとジュリを呼びに来た。式が始まるのが近いのだろう。介添人としての最終チェックをするからと呼びに来たのだった。「ハニ、行って来るね。」いつも冷静なミナと違って、ジュリは深呼吸をして緊張しているのが伝わって来た。「う~緊張をする・・・・痩せちゃいそう。」「あんたは少しは痩せても大丈夫だけど、私はこれ以上痩せられない。」久しぶりのミナとジュリの掛け合い。ミナも緊張をしているが、きっとそれ以上にハニが緊張をしていると思って、ふたりは気を効かせてそう言ったのだろう。パタンとドアが閉まると、控室にはハニひとりになった。控室外の人の話し声と足音が、会場となっている部屋の方に行く事が伝わって来る。頭の中で誓いの言葉を思い出しながら、声に出してブツブツと言ってみるが、その声が震えているのが自分でも判った。大丈夫、大丈夫誓いの言葉は暗唱じゃなくて、ちゃんと宣言書を持って言うのだから大丈夫と自分自身に言い聞かせて、ただ間違えて言わないようにしようと練習をしていた。コンコン・・・・軽いノックの音がしてドアが開くと、ヘラが顔を覗かせた。「ヘラ・・・・」「ついに、あのペク・スンジョと結婚するのね・・・・おめでとう・・・」「ありがとう。」お互い少し前まで、スンジョを巡って色々あったが、もうこれからはいい友達でいられるとハニは思った。「私を振って結婚する相手が、ハニ・・・・・あなたでよかったわ。」「ヘラ・・・・・」ヘラの言葉は以外でもあり、本気でスンジョのことを好きだった事を思うと気の毒な気もした。「他の人と張り合って負けたのなら、彼を奪う事は出来ないけど、あなたとだったらいつでも彼を奪う事は出来るから。」お祝いの席でこんな事を言うヘラは、やっぱり私は好きになれない。

声を出して 60

「じゃぁ、座席に着くからぁ~」高校のクラスメートが花嫁控室から出て行くと、入れ違いにふたりのソン先生が入って来た。「先生・・・ソン先生も・・・」「変わらないわねぇ~ハニは。変わらないのは、私ガンイも旦那ジオも、苗字が変わらないから結婚したのかも忘れてしまいそうになるわ。」「「「旦那?」」」ハニの介添人として付いていたミナとジュリもハニと一緒に叫んだ。ソン・ガンイ先生はハニにゆっくりと近づいた。「結婚したのよ。しないといけない事情があって・・・・ふふふ・・・」ガンイ先生の大きくなったお腹を見て、ハニたちは指を指して驚いた。「いつ?いつ結婚したのですか?」「二ヶ月前よ。」「二ヶ月前って、先生・・・お腹の大きさと合わない・・・」「お互い大人だからこう言う事もあるのよ。ハニだって、最初招待状を貰った時にペク・スンジョと一緒の家にいたから間違いでもあったのかと思ったわ。」「間違いって・・・あるわけ・・・」「あるわけない事は判っているわよ。ペク・スンジョとそう言う事になっても、彼ならそっちの対策もしているだろうし。」元教師と元教え子。教師と生徒の仲も良かったにしても、あまりに教師らしからぬ発言に夫であるジオは困ったような顔をしていた。「ほら・・・ほら・・・行くよ・・・ガンイ・・・」「判ったわ・・・ハニ、行くね・・・幸せになって、早くペク・スンジョの遺伝子を受け継ぐのよ。」1クラスと7クラスで下らない事で張り合っていた事も、今となっては懐かしくて楽しい思い出。私もいつか先生たちの様に、楽しい夫婦でいられるといいな。でもきっとスンジョ君とはあんな風な感じにならないと思うけど。

声を出して 59

招待客を迎えている間、ハニは友達たちからの祝福を受けているのだろうな。「スンジョ!」「先生・・・来てくださいましてありがとうございます。ガンイ先生も一緒に来て下さ・・・・・え?」「私達結婚したのよ、つい最近。」ガンイ先生がつい最近結婚したというには、その体型はつい最近とは言えない。「まじまじと彼女を見るなよ。」照れた顔でそう言うソン・ジオン先生。そりゃあそうだろう、想像もつかなかったのだから。もちろん、スンジョとハニが結婚するのだって、ふたりを知っている人ならそう思うし、それ以上に当の本人が一番想像もつかなかったのだから。「意外とね・・・彼って・・スケベだったの。」この二人の先生が結婚したのはそれも運命だったのだろう。高校生の頃は、クラス同士がお互いに敵対していたのは、学校の伝統の様でもあるし、それと合わせて先生同士も嫌味を言い合っていた。「でも、ペク・スンジョ・・あんたにはオ・ハニが似合っていたのよ。」先生だけじゃなく、高校時代の友達や大学の同じ講義を受けている仲間やテニス部の連中にも同じように言われた。「ハニに会って来るわね。」おめでとうと人に言われるのが、その一言がまた自分を幸せな気分になる。親父の会社関係の人は、オレが親父の社長代理として仕事をしていたから面識はあり、ハンダイを継がない事を残念がっていた。おじさんの仕事関係の人からは、良い娘さんを嫁にして幸せ者だと言われた。みんなが祝福をしてくれて、これからの結婚生活に不安が少しあったが、自分に自信が付いたような気がした。ハニもそれ以外の人も、オレが結婚生活を幸せで過ごす事が出来るか不安になっていた事など知らないだろう。「おめでとう。」「ありがとう。」ヘラが、笑顔で握手を求めて来た。スンジョとヘラはお互いに共通する部分もあり、それが綺麗に清算されていい友人関係になったという握手をした。「いい顔をしているわ。」「そうか?」「何だか悔しいけど・・・・その笑顔を作れるのはハニの力ね。ハニに会って来るわ。」頭のいい女性だ。オレのした事に、本当は気分よくないはずなのに、彼女は本当に周りの状況を考えて自分を冷静に判断が出来る人だ。だからと言って、空気が読めないハニに不満があるわけではなかった。

声を出して 58

ポンと肩を叩かれて、我に帰ったような気がする。「花嫁さん、仕上がりましたよ。」眠っていた訳じゃなく、起きて目を開けていたのに、私の意識はどこかに行っていたみたい。髪もきちんとセットされて、お化粧も自分でするよりも本当に綺麗に仕上がっていて、信じられないくらい自分じゃない気がした。「肌が白くてきめ細やかで、お化粧映えがする花嫁さんで、美容師の私はとても完璧に仕上がったと思います。」完璧・・・・お世辞だと思っていても【完璧】と聞くと、何だかうれしいような気がした。だって、私は今まで何をやっても不満足で、人の何分の一しか出来た試しがないから。初めて着るウエディングドレスは、思ったよりも重く感じた。お店で試着した時は、ただ嬉しくてその重さなんて気にもならなかったけど、いざ本番となるとあの時感じたドレスの重さとはちがった重みを感じた。ペク・スンジョと言う完璧な男性(ひと)の奥さんと言う代名詞がそう感じるのかもしれない。代名詞・・・・私がこんな言葉を思い浮かぶなんて信じられない。ハニは、立ち上がるとフワッと身体が浮いた感じがして、また椅子にドスンと座りこんだ。「大丈夫ですか?」「はい・・何だか、足が宙に浮いた感じがして・・・」「緊張をしているのですね。それじゃあ、座ったままイヤリングとネックレスとヴェールを付けましょうね。」スンジョ君の誕生石のパールを付けると思うと、胸が熱くジーンとして来た。別に誕生石というのじゃなくて、こういった時に付けるものだと判っているけど、何もかもがスンジョ君に結びついてしまう。ハニはヴェールを付け終ると、隣の控室に手を引かれて移動をした。上座正面に猫足のゴブラン織りの椅子に、一歩一歩歩いて行くと心臓の音がバコンバコンと言っているのが聞こえた。式場スタッフはハニを椅子に腰かけさせると『お義母様をお呼びしますね』と言って、控室を出て行った。

声を出して 57

ホテルに親父たちと到着をすると、式場担当の責任者がホテル支配人と一緒に出迎えに来た。 こういう時は、親父の会社の力の大きさに感謝する。 お袋もそれを使って、無理に式場を押さえた事は判っている。 普通、これほどの規模のホテルが二週間前に部屋を貸してくれるはずなどないのだから。 「スンジョ、パパはギドンとウンジョと家族控室に行くから。」 親父たちは家から正装で来ているから、着替える必要もなくそのまま休憩をする為に控室に行った。 「花婿さん、控室に案内をします。」 花婿さんと呼ばれて、まさかこのオレが緊張をするとは思ってもいなかった。 ハニがこういう時にはこういうのだろう 。『遂に、遂に本番が来た どうか緊張をし過ぎてドジらないように』 本当にそんな言葉が口から出そうなくらいに、このオレが緊張をしていた。 花婿控室と書かれたドアの所に案内をされると、スンジョはその前で一度立ち止まった。 「どうされましたか?」 「いえ・・・・」 「花嫁さんは、今お化粧をしている頃だと思いますよ。着付けのスタッフがとても綺麗な花嫁さんだと申しておりました。」 「はぁ・・・・」 本当は、ハニが綺麗だと言われて嬉しくて仕方がないし、オレにとってハニは他の女の子と比べられないし、比べる気もないからハニがどんな風に変わっているのか想像がつく。 簡単にヘアセットをして貰い、真新しく糊の効いたドレスシャツに袖を通すと、ブルッと身体が震えるような感覚になった。 「あとは、大丈夫です。」 シャツを着るのも別に着せて貰ったりしなくてもいいが、一応着付けの人はそれが仕事だからするのだろう。 だけど『男は着付けスタッフに着せてもらわなくても着替えなど出来る』
と言うのは表向き。 生れて初めての緊張が、ここに来て終りではなくて、ここからが始まるという事。 この先何十年も、生涯を掛けてハニの良い所そうではない所を全てわかって受け止めて結婚をするという、その責任感を背負う事への自分の気持ちを落ち付かせるために、独りで気を静めている時間が欲しいと思ったから。 スンジョは着替えが終わると、部屋に備え付けのソファーに深く腰掛けて天井に顔を向けて目を閉じた。

声を出して 56

控室に案内されて、そこに用意されているウエディングドレスやアクセサリーを見ると、本当に私は結婚をするのだと実感をした。 「ハニちゃん?」 「お・・・おばさん・・・・涙が出て来ちゃった・・・」 「綺麗よ・・・今日のハニちゃんとその涙は。」 ハニは頬に流れた涙を手で拭うと、今までで一番明るい笑顔になった。 「じゃ・・・私達は、向こうの部屋で着替えて来るね。」 「いつか、私も花嫁さんのヘアメイクが出来るように、後から見に来るね。」 ハニに手を振って、ミナとジュリは参列者控室に向かった。 花嫁・・・・
ジュリに言われて、また本当にスンジョ君の花嫁になる日が来たと思った。 夢にまで見た・・・ううん・・夢で見るだけで満足していた夢のような、絶対に叶う事のないと思っていたスンジョ君の奥さんになる。 結局、私はスンジョ君と両想いになって、ペク・スンジョの恋人として過ごした事はなかったけど、行き成り奥さんになった。 「ハニちゃん、トイレに行っておいた方がいいわ。私も、控室に行って美容師さんにヘアメイクをして貰って着替えたら来るわね。」 「はい、おばさん。」 グミはニッコリと笑って、ハニの手を取った。 「ハニちゃん、今日からはお義母さんと呼んでくれる?あなたは、今日から我が家の嫁になったのだから。」 少し気恥しい気もしたけど、こんなに早く夫になる人の母親にそう言う事が出来るとは思ってもいなかった。 「お・・・・お義母さん・・・・」 グミは嬉しそうに微笑んで、ハニを抱きしめた。 「ありがとう・・・スンジョと結婚をしてくれて・・・幸せになるのよ。それがハニちゃんのお母さんとお父さんの夢でもあるのだから。」 ママ・・・私の成長を見ることなく亡くなってしまって。 パパと一緒にいるのが普通の事だと思う人もいるけど、私はその普通の事が出来なかった分、他の人以上に幸せになりたい。 「花嫁さん・・・・着替えをしましょうね。」 ホテルスタッフに声を掛けられると、椅子に腰かけて髪のセットとメイクを美容師が始めた。  

声を出して 55

いつもと変わらない街並みも、今はとても輝いて見える。 知らない小さな子供を見れば、いつかは私もあんなに可愛い子供の母親になるのだと思うと、自然と笑顔になれそうだった。 「ハニ、何をニヤついているの?」 「え?ニヤついてなんて・・・・・」 「今が一番幸せな時だからね・・・・」 後部座席に座っているハニとジュリの会話に入って来たグミは、バックミラー越しにからかう様に入って来た。 ハニがニヤつく以上にグミも嬉しかった。
一目見た時から、ペク家の嫁になるのはハニだと決めていたから。 ひねくれ息子がなかなか自分の気持ちに素直にならなくてヤキモキしていた。 夫が倒れた時にはスンジョが会社の為にと、自分の想いを封じ込めて見合いをした時は、口では絶対にスンジョはハニの元に戻ると言っていても、実際にはそんな自信なんてなかった。 人の気持ちはそれが自分でも判らないのだから、ましてや実の息子とはいえスンジョの心は判らない時も時々あった。 そんな思いが出たのだろうか。 グミは珍しく無意識に思っていた言葉が口から出ていた。 「本当に良かったわ。」 「そうですね、おばさん。」 「え?」 タイミングが良かったのか、ハニたちは車の窓から外を見て、天気の話をしていたのだった。 「昨日までは雨が降って寒かったでしょ?ホテルの中だから空調はちゃんとしているけど、結婚式に来てくれる人たちが、ドレスが雨に濡れたりしたら大変ですよね。」 「そうね・・・・・天気を晴れにしてくれた晴れ女はハニちゃんね。」 「私が晴れ女ですか?」 「そうよぉ~」 あと数時間で嫁と姑と言う立場になるが、この二人には世間でいう嫁姑の問題は全く心配はいらない。 「スンジョは、雨男なの。何か記念になる時にはいつも雨が降っていたし・・・・・」 そう言えばそうだ。 スンジョ君が私と結婚がしたいと言った時も雨だった。 あの少し前は、大雨で・・・・・・そこで・・・・・ 「ふふふ・・・・」 またハニの妄想が始まったのだと思ったミナとジュリは、それがハニにとって一番楽しい時の癖だと判っていた。 

声を出して 54

「ハニ・・・ハニ・・・」 「ぅ・・・・ん・・・・」 何度も起こしても、ハニは全く起きない。
ミナは、大きくため息を吐いた。 「ミナ、交代しようか?」 着替えが終わったジュリは、ミナの肩を叩いてハニを起こすのを交代した。 「ミナは起こし方が優し過ぎだよ・・・・・・・」 ジュリは深呼吸をしてニコッと笑うと、ハニの耳元に囁いた。「ハニ、ペク・スンジョが、結婚が嫌だと言って逃げ出した・・・・」 「えっ!」 ジュリのたった一言で、何度ミナが起こしても起きなかったハニが勢いよく起き上った。 まさか、こんなに簡単に起きるとは思ってもいなかったジュリとミナは一瞬固まったが、ハニの勢いが予想以上だったのがおかしかったのか、ふたりはお腹を抱えて笑い出した。
 「どうして笑うのよ。スンジョ君が・・・・?」 「嘘だよぉ~」 「嘘・・・」 「ハニったら、何度起こしても起きないんだもん。おばさんが、ギリギリまで寝かせてあげてと言っていたけど、ちゃんと朝ご飯を食べて出すもん出さないと、お式の最中に『トイレェ~』は行けないからね。」 「昨日眠れなかったから、ちょっと寝過ごしただけじゃない・・・・・ミナ達はもう食べたの?」 「そりゃぁ・・・私達は自分で着付けとかしないといけないから。髪のセットはジュリがやってくれるから、ハニと一緒に式場に行く約束じゃない。」 ハニはミナとジュリとグミと先に結婚式を行うホテルに行く事になっていた。 式場まで着て行く洋服に着替えると、急ぎ足で部屋を出ながら簡単に髪の毛を結んだ。 興奮と緊張でギドンに進められて飲まなければ、きっと朝まで眠れなかった。 ほろ酔い加減で布団に入ると、数分で眠りに着く事が出来た。 「おはようございます・・・・」 「あら、ハニちゃんおはよう・・・もう少し眠っていてもいいのに。」 「いえ、食べて少し体を落ち付かせないといけないから。」 チラッとスンジョを見ると、いつもと同じ様子で食事をしているが、何だか気恥ずかしい気持ちがした。 「スンジョ君、おはよう・・・」 「おはよう。」 何か特別な事でも言ってくれるのかなぁ・・・と思っていたが、そこはやはりスンジョだ。 どんな事が起きても、何が起きてもいつもと変わらない。 特別に変わったことを言ったりしないことくらい判っていたが、なんだか少し淋しい気がした。