声を出して 57
ホテルに親父たちと到着をすると、式場担当の責任者がホテル支配人と一緒に出迎えに来た。
こういう時は、親父の会社の力の大きさに感謝する。
お袋もそれを使って、無理に式場を押さえた事は判っている。
普通、これほどの規模のホテルが二週間前に部屋を貸してくれるはずなどないのだから。
「スンジョ、パパはギドンとウンジョと家族控室に行くから。」
親父たちは家から正装で来ているから、着替える必要もなくそのまま休憩をする為に控室に行った。
「花婿さん、控室に案内をします。」
花婿さんと呼ばれて、まさかこのオレが緊張をするとは思ってもいなかった。
ハニがこういう時にはこういうのだろう 。
『遂に、遂に本番が来た
どうか緊張をし過ぎてドジらないように』
本当にそんな言葉が口から出そうなくらいに、このオレが緊張をしていた。
花婿控室と書かれたドアの所に案内をされると、スンジョはその前で一度立ち止まった。
「どうされましたか?」
「いえ・・・・」
「花嫁さんは、今お化粧をしている頃だと思いますよ。着付けのスタッフがとても綺麗な花嫁さんだと申しておりました。」
「はぁ・・・・」
本当は、ハニが綺麗だと言われて嬉しくて仕方がないし、オレにとってハニは他の女の子と比べられないし、比べる気もないからハニがどんな風に変わっているのか想像がつく。
簡単にヘアセットをして貰い、真新しく糊の効いたドレスシャツに袖を通すと、ブルッと身体が震えるような感覚になった。
「あとは、大丈夫です。」
シャツを着るのも別に着せて貰ったりしなくてもいいが、一応着付けの人はそれが仕事だからするのだろう。
だけど『男は着付けスタッフに着せてもらわなくても着替えなど出来る』 と言うのは表向き。
生れて初めての緊張が、ここに来て終りではなくて、ここからが始まるという事。
この先何十年も、生涯を掛けてハニの良い所そうではない所を全てわかって受け止めて結婚をするという、その責任感を背負う事への自分の気持ちを落ち付かせるために、独りで気を静めている時間が欲しいと思ったから。
スンジョは着替えが終わると、部屋に備え付けのソファーに深く腰掛けて天井に顔を向けて目を閉じた。
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