声を出して 58
ポンと肩を叩かれて、我に帰ったような気がする。
「花嫁さん、仕上がりましたよ。」
眠っていた訳じゃなく、起きて目を開けていたのに、私の意識はどこかに行っていたみたい。
髪もきちんとセットされて、お化粧も自分でするよりも本当に綺麗に仕上がっていて、信じられないくらい自分じゃない気がした。
「肌が白くてきめ細やかで、お化粧映えがする花嫁さんで、美容師の私はとても完璧に仕上がったと思います。」
完璧・・・・
お世辞だと思っていても【完璧】と聞くと、何だかうれしいような気がした。
だって、私は今まで何をやっても不満足で、人の何分の一しか出来た試しがないから。
初めて着るウエディングドレスは、思ったよりも重く感じた。
お店で試着した時は、ただ嬉しくてその重さなんて気にもならなかったけど、いざ本番となるとあの時感じたドレスの重さとはちがった重みを感じた。
ペク・スンジョと言う完璧な男性(ひと)の奥さんと言う代名詞がそう感じるのかもしれない。
代名詞・・・・私がこんな言葉を思い浮かぶなんて信じられない。
ハニは、立ち上がるとフワッと身体が浮いた感じがして、また椅子にドスンと座りこんだ。
「大丈夫ですか?」
「はい・・何だか、足が宙に浮いた感じがして・・・」
「緊張をしているのですね。それじゃあ、座ったままイヤリングとネックレスとヴェールを付けましょうね。」
スンジョ君の誕生石のパールを付けると思うと、胸が熱くジーンとして来た。
別に誕生石というのじゃなくて、こういった時に付けるものだと判っているけど、何もかもがスンジョ君に結びついてしまう。
ハニはヴェールを付け終ると、隣の控室に手を引かれて移動をした。
上座正面に猫足のゴブラン織りの椅子に、一歩一歩歩いて行くと心臓の音がバコンバコンと言っているのが聞こえた。
式場スタッフはハニを椅子に腰かけさせると『お義母様をお呼びしますね』と言って、控室を出て行った。
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