声を出して 44
言わなくてもいい事を言って、言わないと判らない事を言わないで
それは自分でもよくわかっていた。
でも、あの時にハニに言ってはいけなかった。
結婚式まであと数日のこの時に、ハニと喧嘩をしてはいけない。
オレだってそうだから、ハニなら尚更の事、勉強に身が入らないだろう。
「お袋、悪いけど甘い物を作ってくれるか?」
「まぁ!スンジョが甘い物?」
「オレじゃない。」
グミはピンと来た。
「スンジョも、変わったわね。」
「そうか?」
「ハニちゃんはいい子でしょ?」
「いい子かどうか・・・・課題提出を忘れるなんて、小学生並だ。」
そんな事を言っても、それはハニの為に言った言葉だった。
「忙しかったって、そんなのが理由になるか!」
「判っているわよ。自分でもちゃんとやるつもりで、途中までは終わらせていたけど、ドレスや指輪を選ぶのにスンジョ君が・・・・・」
「お前はそうやって、人の所為や何かの所為にする。その性格を治せ!」
「私に性格を治せって言うよりも、スンジョ君の性格を治した方がいいと思う!!」
家の中で喧嘩をすれば、ハニもお袋が間に入って来るのを判っていたから、大学の駐車場に向かう間に言いたいだけ言って車に乗った。
普通は、喧嘩をした後に食べる物も不味くて喉を通らないのに、アイツはいつもと変わらずと言うよりも、いつもよりも素早く食べ終えていた。
「おばさん、少し体調が悪いので、片付けを休んでもいいですか?」
「いいわよ。お式も近いし、精神的に不安定なのよね?」
お袋は単純にそう思ったのだろう。
さすがにウンジョは、こちらの事情も分からないし、いつもと同じ調子で嫌味を言っているだけだった。
「体調が悪いって言うのに、脂っこいステーキを一気に飲みこむように食べるし、ご飯粒一粒も残さずに食べているし・・・・・いてっ!蹴っ飛ばすなよ。」
「蹴ったのは、ハニじゃない。お兄ちゃんだ。まだみんなが食べているんだから、食べ終わるまで席を立つな。」
「寝たいの!」
癇癪を起こしたハニを止めるのは、父親であるおじさんでも無理だと言っていた。
「甘い物でも食べれば、落ち付くかもしれんな・・・・」
それはハニだけじゃなく、一般的に女の子は甘い物で釣ればいい事は、女の子の気持ちを知らないオレでも判る。
お袋に作ってもらった、ハニが大好きだと言っていた『メガプリン』 甘くはないが、全卵と生クリームで作ったこの味が好きだと言っていたらしい。
「ハニ・・・ちょっといいか?」
「・・・・・・」
思った通り、返事はなかった。 子供みたいなところも、今は可愛いと思う。
「返事をしなくても開けるからな。」
勢いよくスンジョがドアを開けると、ハニは机に向かって座っていた。
「ハニらしい・・」
その言葉が思わず声に出てしまっても、ハニは動く事はなかった。
一歩一歩静かに歩いて、机の上に『メガプリン』を乗せたトレイを置いて、スプーンで少し救って半開きのハニの口の中に入れると、ぐっすりと眠っているのに、それを美味しそうにペロンと食べた。
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