スンジョの戸惑い 171
シンと静まり返った家に帰ると、夕食の匂いもしなく母の鬱陶しいくらいに賑やかな声が聞こえない。
こんな事は、産まれてから一度も無かった。
最近でこそ言葉は変わったが『お帰り』という声が聞こえないことがこれほど寂しいとは思わなかった。
旅行でいなくても、冷蔵庫を開ければいつも作り置きのおかずが入っていた。
「何を作ろう。」
ハニが、スンジョに並んで冷蔵庫の中を見ながら呟いた。
「何を作ろう?」
「違った・・・・何が作れるかな・・・・だよね。」
オレが作った方が早いだろうが、こういった時のハニは意外と出来る・・・
意外と出来る・・・・
そう思って我慢をして待っていたら、3時間もかかって出来た夕食は・・・・・・・
「これ・・・何だよ・・・・バカオ・ハニ・・・・・・」
「オ・ム・ラ・イ・ス・・・・・です・・・けど・・・・・」
ベタベタになったチキンライスにトロトロどころか、ほとんど生の玉子。
同じ食材でもこんなに別物が出来るとは、スンジョもウンジョも、作ったハニも知らなかった。
「こんなの食べられるかよ。ピザを取ろうよ。」
スプーンでハニ特製のオムライスを突っついているウンジョは、すくっても口に入れないでまた皿に戻していた。
「一生懸命に作ったんだから・・・・・スンジョ君が前に作った作り方と同じだから、見かけはよくないけど安心して。」
スンジョが作った時その場にいなかったウンジョは、驚いたようにスンジョの顔を見た。
「お兄ちゃん・・・・・いつ作ったの?」
「前な・・・・・・・ウンジョ、文句を言わず食べろよ。見かけは良くないが、食べられるから。」
ハニ自身も自分で作ったオムライス擬き(もどき)を食べても大丈夫かと不安そうに口に入れた。
深夜過ぎになってもスンジョは寝付かれなかった。
水を飲もうと思い、ダイニングに降りて椅子に座ると、これからどうしたらいいのかと考えた。
経理部長は、家族がかならずに探して会社に行くように説得すると言っていた。
万が一手遅れになってしまわないように、心当たりを当たっているとスチャンの秘書からも連絡があった。
「スンジョ君・・・・まだ寝ないの?」
眠れないのはスンジョだけではなくハニも眠れなかった。
「親父・・・・・かなり悪いらしい・・・・・・このまま入院が長引けば、会社も人手に出すかもしれない。」
「そんな・・・・・・」
そんな事があれば、スンジョとの生活どころか、スンジョ達の今までの生活も出来なくなってしまう。
「医者になるのも諦めないといけないかもしれない。」
責任感の強いスンジョだ。
自分の夢を諦めても、家族や社員の為に何かしようと思う事はハニにも判っていた。
「折角夢を見つけたのに・・・・・・・」
「大丈夫だ・・・・・ハニが気にする事はない。ペク家の長男だから、親の希望通りの道を進むだけだから。」
ハニはスンジョの声があまりにも寂しそうで、可愛そうで何とかしてあげたい気持ちになった。
「スンジョ君・・・・・スンジョ君・・・・・・・」
何度もハニはスンジョの名前を呼んで、机に伏しているスンジョを包むように背中から抱きしめた。
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