ハニの戸惑い 14
スンジョの車とは違い、ギドンの車は仕入れに使うため、後ろの座席にはコンテナが積まれ、革張りのシートではなくレザーでひんやりしているが、それはそれでずっと小さい頃から乗っていたから落ち着く。
「悪いな・・・ハニのお腹に赤ちゃんがいるのに、この車は振動もあって大丈夫か心配だ。」
「大丈夫だよ。だって、ママの子供だよ。この車に乗ってパパに病院まで送ってもらったんだよね。」
「はは・・・そうだな。ハニはママとそっくりだから・・・・でも、ママみたいに子供を残して逝くなよ。パパみたいな思いをスンジョ君にもさせたくないからな。」
「大丈夫だよ。スンジョ君はお医者様になるから。」
「そうだな。」
膝の上の古い箱の中には、ハニの母ハナが残してくれたハニの産着が入っていた。
弟か妹がいれば、きっとそれを着ていたかもしれない。
「ねえ、パパ?」
「ん?」
「ママが亡くなるまでに、どうしてもう一人子供を考えなかったの?」
「そうだな・・・・スチャンの所にみたいにスンジョ君とウンジョ君の間に女の子がいたのだから、年齢差を考えればいても可笑しくないよな。でも、考えてご覧・・・ママはハニに似ているんだ。」
「ど・・・どういう意味よ・・・・不器用なのは、パパに言われなくても自覚しているよ。」
「そうだ・・・不器用だから、もう少し間を開けてハニが小学生になったら、ハニに弟か妹をと話していたんだ。ママは自分で子供を平等に愛したいからと言って、ハニが小学生になって自分の事は自分で出来るようになったら・・・・・・だけど・・・その前に・・・・」
そう、その前にママが病気になった。
病院にお見舞いに行っては、よくママと一緒に新生児室で眠っている赤ちゃんを見ていた。
「ママ・・ハニも妹が欲しいな・・・幼稚園のみんなのお家には赤ちゃんがいるの。ねえ・・・欲しい・・・・」
ママは黙っていた。
黙っていたけど、よく覚えているのは涙を堪えた笑顔で新生児室の中の赤ちゃんを見ていた。
パパは私が知らないと思っているけど、私・・・・知っているよ。
おばあちゃんとパパとママで話していた事・・・・
「ハナ・・・・・諦めよう。」
「いや・・諦めたくない。」
「本当にお前は頑固な娘だ。ハニ一人でもいいじゃないかね。強い薬を飲むから、お前がいなくなった後、その子供をギドンとハニで見ないといけない。ギドンは大人だからいいけど、ハニはギドンが仕事に行って家にいなくなったら一人で赤ん坊の面倒を見なければいけなくなる。ハニに辛い思いをさせるのか?」
「影響を受けないかもしれない。」
「ハナ、お義母さんの言うとおりだ。その子を産むと、お前の病気にも影響する。お前が一日でもハニといたいのなら諦めろ。」
あの時の病室の中の様子は、今でも忘れない。
頭が悪くて忘れっぽくても、忘れる事の出来ない光景だった。
あの後、ママのお腹にいた赤ちゃん・・・・・
「パパ・・・本当は、いたんだよね?ママのお腹に赤ちゃんが・・・」
「ハニ・・・お前・・・・知っていたのか?」
「うん。堕ろしたんでしょ?ママたちとの話を聞いた後に、暫く病院に行ってはダメだと言われたけど行きたくて内緒で行ったの。その時に、ママがお腹にそっと手を当てて、ゴメンねゴメンねと言っていた。」
「そうか・・・・・」
それっきり、パパは何も言わなかった。
私のお腹にいる赤ちゃんは、きっとその時に産まれる事の出来なかった赤ちゃんなんだ。
その子が女の子だったのか、男の子だったのかは知らないけど、私が欲しい妹が産まれる予定だったら、この子は女の子かな?
ママの為にも、この子が元気で産まれるように私は身体に気を付けるね。
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