スンリのイタズラなKiss 44
ソラと並んで立っていたお袋の背中が、泣いているように悲しく思えたのはどうしてなのだろう。
人一倍落ち込みや思い込みの激しいお袋が、パニックにもならず涙を見せないだけじゃなく、笑ってはいたが心から笑っている風でもなかった。
「ただいま。」
ソラを最寄りの駅まで送って行き、こんな気持ちになるとは思っていなかったが、改札を通ったソラと別れるのが辛かった。
ソラも同じ気持ちなのか、なかなかホームに行こうとしなかった。
「電車が来るぞ。」
「うん・・・・・・」
名残惜しそうに小さな声で返事をして、ホームに向かおうとしたソラの手を引っ張った。
「スンリ・・・・・」
驚いた顔でソラがオレの目を見た。
まさかオレがこんな行動を取るとは思わなかった。
ほんの一瞬だけソラの唇に触れると、驚いて見開いた目が潤んでいた。
「また明日な・・・・・・」
あの何でも言える気の強いソラが、しとやかな女の子みたいに顔を赤くしていた。
改札の柵越しにキスをした二人の横を、咳払いをしながら通り過ぎる人や、視線を合わせないようにしている人が何人か通り過ぎた。
「あのさ・・・・・・一瞬でも、キスをする時くらいそのデカい目を瞑れよな。」
「うん!」
嬉しそうにオレに手を振って、ソラはホームの方に向かって走って行った。
電気が灯っている家の中は、オレが声を掛けたのに誰も出て来なかった。
家の中に漂うコーヒーの香り。
きっとお袋が親父にコーヒーを淹れたのだろう。
いつも飲んでいる甘いカフェオレじゃなく、少し親父と同じようにブラックで飲んでみようかなと思った。
「書斎にいるのかな?」
親父の書斎に向かうと、少し開いたドアからお袋と親父の話声が聞こえた。
「ソラと何を話していたんだ?」
見ていないと思っていても、スンジョはいつもハニの行動をどこからでも見ている。
「ソラちゃんって・・・・いい子ね。私がいつまでも昔の事を気にしていたのが恥ずかしい。」
「やっと気づいてくれたか・・・・・・・オレはヘラと見合いをしたけど、ハニ以外に心は奪われたりしないから。」
書斎のリビングより少し暗い照明の下にいる親父とお袋の二人を見て、オレはなんだか恥ずかしくなった。
仲のいい両親だという事は知っているが、親父がこんな風にお袋を温かい話し方で話しているのを見た事がなかった。
いつも家族の前では、「ああ」とか「判った」「部屋に行く」それくらいしかお袋に話していないから、そんな言葉にも嬉しそうに目を輝かせているお袋が可哀想だと思っていたけど、あの空間の両親を見て思ったのは、心が通じ合っているからなんだと言う事。
あの両親から産まれたという事は、オレが誇れる事なのだと気付いた。
小学生の頃に兄弟が多くてからかわれて少し捻くれた時があった事を、両親に申し訳なく思った。
きっと親父たちは大恋愛で結婚したんだろうな。
おじいさん同士が大親友だったと聞いていたけど、二人が出会った時はどんな出会いだったのか知りたくなって来た。
オレとソラのように、きっと楽しい出会いだったんだろうな。
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