明日はまだ何もない明日(スンミ) 57
書斎の隙間から廊下にもれる灯り。
今夜も深夜過ぎまで調べ物をしているスンジョに、ハニはコーヒーを運んだ。
「コーヒーを淹れたよ、どこに置いたらいい?」
「そっちに置いてくれるか?」
ハニはスンジョの示した方にあるミニテーブルの上にトレイを置いて、ソファーに静かに腰掛けた。
「難しい手術でもあるの?」
「いや・・・・式場を探している。」
「式場?」
スンジョは幾つかプリントアウトした物を纏めて、ハニの横に腰かけた。
「スンミとヒョンジャの結婚式だ。」
「電話の内容を知っていたの?」
「まぁ・・・・・・ヒョンジャはスンリの親友だと言う事は知っているよな?」
「この間、静養所で会ったからね。」
淹れたてのコーヒーを一口飲んで、スンジョは天井を見上げた。
「あのバレエ教室の先生と別れさせるためにどうしたいいのかと考えていた時に、教え子でアイツならスンミと結婚させてもいいかなと思ったんだ。」
スンジョの意外な行動にハニは驚いたが、何だかそんなスンジョを見て不思議とそれが父親として当たり前の事なのかもしれないと思った。
「じゃあ、あの静養所にスンミを入れたのは・・・・」
「二人を会わせるため。ナ先生があの静養所の所長と親しいから、紹介して貰ったんだよ。」
ハニはスンジョがどうしてこんなにスンミの為に、色々と手回しするのかと考えていた。
「オレがスンミを可愛がる理由が知りたいのだろ?」
「判る?」
「そりゃ・・・・・スンミはお前に似ているからだというだけじゃない、今まで誰にも言わなかったが、産まれた時危なかったんだ。早産で自宅出産、いくらオレでもそんな状態で保育器もない家から病院に向かう時は、もうダメだ助からないと思った。オレがお前の変化に気が付いていれば、病院で産まれてすぐに処置が出来たはずだとずっと責任を感じていた。」
「そうだったの・・・・あれは私も悪かったと思う。スンリの時は陣痛から産まれるかで時間が掛ったから、まだ大丈夫まだ大丈夫って・・・・・スンハやスンリにも可哀想な事をしたと思うの。赤ちゃんが産まれる時のあの状況をあの子たちはよく耐えられたと思う。私なら無理だったわ。」
また一口コーヒーを飲むスンジョの顔は寂しそうだった。
今の自分の気持ちを正直に言う事が出来るのなら、その相手はハニしかいない。
「スンハとスンミとスアの三人の娘の中で、一番嫁がせたくないのはスンミだ。ずっと自分の手元で暮らして欲しいと思っていた。今になると、お父さんがオレとハニが結婚する時はこんな思いをしてたんだと思うと、結婚してからお前をもっと幸せにしてあげればよかったと思う。」
「私は幸せだよ。スンハとインスンにその子供のインハにスンリとソラと産まれてくる子供、スンミ、スンスクとミラと産まれてくる子供にまだ子供のスンギと双子のスングとスア・・・・・凄いよね。母が亡くなってからスンジョ君と一緒に暮らすようになるまでは、父と二人だけの生活だったから毎日が楽しくて仕方がないの。この先も子供たちが結婚したらまた家族が増えて・・・・・お母さんも亡くなったお父さんもきっとそんな私たちを見たら喜ぶと思うよ。」
髪に白いものが増えたスンジョと、昔と変わらない夢を見ているように話すハニは、また家族が増える事に新たな幸せを感じていた。
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