言えない恋じゃないけれど(スア) 19
ザクザク・・・・
トントントン・・・・・
ジャー
「ん?スアが何か作ってるのか?」
シャワーから上がったギルは、髪の毛を拭きながらキッチンの方から聞こえる音にバスルームのドアを開けた。 バスルームの方に背中を向けて、エプロンを着けたスアが朝食を作っていた。
「良い匂いがするな・・・・・」
「ギルさん・・・・すぐに出来るから待っててください。」
裕福な家の娘の割に手際のいいスアの手元を近づいて眺めていた。
「意外だな・・・・」
「意外?」
「勉強と漫画でまさか料理まで出来るとはな・・・・・」
サッサとフライパンを動かして、オムレツを返しているスアは高校生の女の子と言うより一人の大人の女性に見えた。
普通の女子高生よりも背が高くて、目鼻立ちが整った少し大人びた顔をしているからなのか、自分の顔を見上げたスアにギルの心臓は妙にときめいた。
知らない振り・・気が付かに振りをしよう。
マグカップもお皿もいくつかある食器はみんなペアの物ばかり。
知らない振りをして、キエさんのだと思っている事にしよう。
ギルさんに嫌われたくないし、事実を聞きたくない。
「食器・・・・私が使ったら、キエさん怒るかな?」
「怒らないよ・・・キエは結婚したからここにはめったに来ない。それに今は妊娠初期で辛いみたいだからな。」
小さめのダイニングテーブルに向かい合って座ると、あと何年か後にはスアは誰かと結婚してこういう明るい朝を迎えるのだろうか。
「どうかしたの?」
「いや・・・・なんだか新婚カップルみたいだな・・・・・・」
「し・・・新婚・・・・・」
赤い顔をして俯くスアを見て、まだ高校2年のスアは活発でこちらがこう言えば言い返す事が出来る子なのに、急に黙り込んでしまった。
「悪い・・・・冗談だから・・・・」
「ギルさんが嫌じゃなかったら、私と結婚して欲しい・・・・・・」
「え・・・・・あっ・・・・・」
まさか10歳も年下の女子高生から、逆プロポーズをされるとは思っていなかった。
言った方のスアもギルも、気まずい空気の中でとても食事がとれそうにもなくなった。
___ピン・・・ポォ~ン
「誰か来たみたい・・・」
「朝っぱらから・・・・・何か荷物でも届いたのかもな・・・・・」
椅子から立ち上がってモニターに近づくまで何度も何度もインターフォンがしつこい位に鳴らされた。
「はい・・・あっ・・・・」
「どうしたの?」
モニターに映し出された人を見て、ギルはスアの方を振り向いて、口に指を立てて静かにと合図をした。
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