言えない恋じゃないけれど(スア) 20
<誰?>
<後で話す>
声に出さずに、二人は口を動かすだけの会話をした。
「待ってて・・・・今手が離せないから・・・・ぁあ・・・・5分・・・・5分経ったらロックを解除するから・・・・えっ!前の人に続いてエントランスからエレベーターに乗ったぁ?・・・・判った・・・今・・服を着ている最中だ。部屋のロックを開けるのに時間が掛る。」
モニターに子機を戻すと、ギルは焦った様子でスアの顔を見た。
「まずい彼女が来た。悪いけど、出来るだけ早く追い返すからしばらくベッドルームに潜んでいてくれるか?」
ギルは入口のスアの靴とソファーにあるスアの鞄を持つと、この場所にスアがいた痕跡を消そうと部屋の中を見廻した。
スアに荷物を持たせてベッドルームに押し込んで、スアが履いていたスリッパを受け取ると、部屋のインターフォンが鳴った。
間一髪・・・・・助かった・・・
「はいはい、今開けるよ・・・」
ベッドルームに隠れているスアに聞こえる様に、独り言を言いながらドアに向かっている様子が伝わって来た。
誰?誰が来たの?
前の彼女とまだ別れていなかったの?
考えてみれば、ギルの部屋にはペアの物がまだたくさん残っていた。
スリッパにしろマグカップや食器類に歯ブラシ・・・・ 別れたのなら彼女が使っていた物があるはずがない。
ギルが誰かと話をしているのが聞こえて来たが、それよりもスアはベッドのヘッドボートに置かれているフォトスタンドに目が行った。
ギルと綺麗な大人な女性が、幸せそうにキスをしている写真がはっきりと見えた。
一瞬部屋のドアノブが動いたのが判ったが、ギルが中に聞こえるように大きな声で話をしている。
「虫の知らせか、お前が来ると思ったから朝食を作ったんだろうな・・・」
「いつの間にこんなに作れるようになったの?怪しいなぁ~」
キエさん?
「ミニョンと一緒にいた時に覚えたんだよ。」
ミニョンって・・・付き合っていた彼女・・・あの写真の人?
「シーツまで朝から洗っているみたいだし・・・ベッドルームに入れようとしないなんて・・・・ハハ~ン、新しい彼女が泊まったとか?」
「違うよ・・・ほら朝食が冷めるから早く食べろよ。」
「ダメ・・・まだツワリで食べられないの・・・・・それに紅茶は私が飲まないの知っているでしょ。この紅茶だってミニョンのお気に入りのでしょう。別れたと言っていたのに、部屋の中は同棲していた時の物が残ってるじゃないの。新しい彼女を見せてよ。」
確実にベッドルームのドアを開けようとしているのが判る。
この部屋は12階。
窓の向こうはベランダも何もないから隠れることも出来ない。
唯一出来る場所は、クローゼットの中しかない。
スアは、音をたてないようにクローゼットの中に隠れた。
「初めましてぇ~、ギルの姉のキエでぇ・・・・・・あら?誰もいない。」
「だから言っただろ?誰も泊めていないって・・・・ほら、食べられるのは食べないとお腹の子に悪いぞ。」
ギルはベッドルームにいるはずのスアの姿が見えないことにホッとした。
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