言えない恋じゃないけれど(スア) 21
少しだけギルが開けたままにしたドアの隙間から聞こえるギルの姉のキエの声は、ふざけているのか妙に燥いでいるように聞こえる。
クローゼットの中に隠れているスアは、今が冬で良かったと思うくらいに中が温かかった。
「いきなり朝っぱらからオレん家に来るなよ。主婦が旦那を置いたまま出て来ていいのかよ。」
「いいのよ・・・昨日も喧嘩しちゃった・・・・・もうだめかも・・・私達・・・」
「義兄さん、いい人じゃないか。妊娠中だからキエの気分が悪いことは判っているって・・・・・」
「全くあの男は外面がいいから・・・だから私が騙されたのよ。嫉妬深くてさ・・・・誰が年下の男と付き合ってるって言ったのよ・・あの子が本命なら私は犯罪者じゃないの。」
誰?誰とキエさんは付き合っていると誤解されてるの?
「誤解されている相手は誰だ?」
「知ってるでしょ・・・・・いつも来る・・・・※□△・・・・よ・・・洗濯終ったみたい。干さなきゃ・・・・」
「いいよ・・・乾燥に切り替わるから。でも、本当にその男か?」
洗濯機の洗いが終わるお知らせ音で、キエの言った相手の名前はスアの耳には聞こえなかった。
キエが夫よりも心を許している相手が誰なのか知りたい反面、いつまでもここにキエがいたのなら帰る事どころかクローゼットから出られそうにもなれない。
長期戦になりそうな気がして、スアはクローゼットの床に腰を下ろして身体の力を抜く事にした。
腕を後ろに伸ばして縮こまった身体を解して(ほぐして)いると、スアの細い指に紐状の物が絡まって来た。
「なに?」
クローゼットの隙間から入る光でその紐状の物を見ると、スアの胸にはとても合いそうもない程に大きなブラジャーと派手なショーツ。
今ギルト話をしている細身のキエの胸にも合いそうにもないそのブラジャーは、さっき見たベッドのヘッドボードにあった写真のミニョンの物だろう。
写真に写るミニョンは胸元が大きく開いた服を着て、男性週刊誌に載るような、まるでメロンか小さ目のスイカの様な胸をしていた。
「ハハ・・・ギルさんは巨乳が好きなんだ・・・どうせ整形よ。シリコンやヒアルロン酸を注入しているだけよ。前にスンギ兄さんが言ってたわ<母親が胸が小さければ息子は小さい胸を好む>って・・・だからソラさんだって貧乳よね。どう見てもミナおばさんも胸が大きくなさそうだし・・・・でも・・・・・・・・」
そうは言っても、下着は一組二組ではなく女性の物が入っている籠の中に何セットもの下着が入っていた。
上を見上げれば、派手な女性の洋服が沢山かかっている。
彼女と結婚する予定だと聞いていたのだから、この部屋に泊まりあのベッドでキスをして素肌を合わせ・・・・・・・・・ そう考えるとスアは涙が出て来た。
年の離れた姉と兄がいるから、大人の男女が同じベッドで何をするのか教えてもらわなくても知っている。
それを思うと、部屋は別でも二人だけでマンションで夜を過ごしたのに、キスさえもしてくれなかったギルが『好きだ』と言っても子ども扱いされているのだと思うと悲しくて仕方がなかった。
昨日遅い時間にこの部屋に来たが、体調の悪いギルがリビングのソファーで眠り、スアは広いベッドで眠っていた 女性の下着と洋服ばかりではなく、クローゼットの隅に置いてある派手な箱と、そっと引き出したベッドのヘッドボードの引き出しの中にあった避妊具を見て、大人の二人の恋愛がどんなものなのかを初めて知ったような気がした。
悔しさと悲しさでスアはそれが下着だと判っていても、リビングにいるキエに聞こえないようにそれを口に押え付けて泣いていた。
泣いていれば部屋の外の事など気にもならなく、今は逆にこの暗くて狭い中でただ泣いていたいと思うだけだった。
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