言えない恋じゃないけれど(スア) 22
キエも言いたい事だけ言って、食うだけ食って片付けもしないでようやく帰った。
折角スアが作ってくれた朝食も、オレの分まで食べようとするから、止めないと何時間でもここにいそうだった。
「ツワリの原因は旦那の顔だったのね。食事がこんなにおいしいなんて思わなかったわ。」
「そんなに食うと、豚になるぞ。」
「妊婦はお腹が空くのよ。ところで・・・・ギルはこんなに料理が出来たの?」
疑うような目でギルを見るキエ。
視線を逸らそうものなら『誰が作った』だとか、また『誰を泊めたのか』とかになることは判っていた。
「いつから料理が出来るようになったのよ。ミニョンは料理はしなかったわよねぇ~」
「最近だよ。元々少しは作っていたけど、この年齢になったら健康に気を付けないとな・・・・・ほら食べたらサッサとお袋の仕事部屋に行けよ。オレは夕方から取材に行かないといけないから、少し眠っておきたいんだよ。」
追い出すようにキエを部屋の外に押し出すと、戻られないように入り口の鍵をすぐに閉めた。
鍵を掛けても騒ぐほどバカな女じゃない事に助かったと思った。
キエの歩く靴音が遠くになると、ギルは急いで寝室のクローゼットのドアを開けた。
背の高いスアが膝を立てて、両手に派手な下着を持ってそれを目に当てて泣いていた。
「何を泣いてるんだ?まさか小さい子供みたいに暗い所が怖いとか・・・・狭い所で怖かったとか?」
スアは両手に持っているブラジャーと下着をギルの前に突き出した。
「誰の?」
「誰のって・・・・」
「あの写真のホルスタイン?」
フォトスタンドの方を指差すスアの顔に涙は流れていたが、何かを決意したような顔をしていた。
「ミニョン?・・・確かにアイツは胸がデカすぎだけど・・・ホルスタインね・・・・そうだよミニョンのだ。一緒に暮らしていたからな。」
「だからこれもあるの?」
ギルはスアが差し出した小さな物を見て、ギョッとしてそれを奪い取った。
「どこで見つけたんだ?」
「使ったの?」
高校生のそれもまだ17歳の女の子に、大人の事情の物の説明を強いられるとは思わなかったギルは、スアには誤魔化して言う事は通用しない事を悟った。
「ミニョンとは・・・・お互い割り切った付き合いだったし、二人とも結婚の意志は無かったからな。子供が出来たら困るから、必要な時は使ったよ。」
「私とは使わない?」
「おいおい・・・子供が、大人にそんな事を言ったらいけないよ。」
「だって・・・・ギルさんが好きだもの。」
「オレもスアが好きだよ。好きだからスアが大人になって・・・・・・高校を出て大学を出て社会人になって、オレと対等の大人になってその時に考えよう。」
ギルの言い方にスアは頬っぺたを膨らませて、ちょっと拗ねてみたくなった。
「大人よ・・・・胸はホルスタインよりは小さいけど、普通並にあるわ。多分オンマよりは大きいと思うの。」
「スアは、今は大学進学に向けての準備期間だ。オレの事を好きでいてくれるのもいいが、大学に行けなくなった時にオレのせいにされたら困るからな。」
「ねぇギルさん、ホルスタインとの付き合い始めたきっかけは?」
10歳も下のまだ高校生のスアが、戸惑うことなく言うミニョンとの付き合いを聞かれると、正直に話がしてもいいのかと気になった。
「ミニョンとは、雑誌の取材で知り合った。あの頃は大学を出て初めての取材同行の時かな?」
ミニョンはギルよりも半月だけ誕生日が早いだけで、共通の物があるからと言う事で話をしているうちに自然と付き合うようになった。
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