未来の光(スング) 8
この約ひと月、ハニの様子がおかしい。
最初はハニの言うとおりに、スアの部屋の片付けとスングの部屋の片付けだと思っていた。
普段から整理整頓をしている子達だから、いくらまだ時々仕事をしているハニが片付けるにしても数日で終わると思っていた。
ガチャリとドアが開いて、俯き加減でハニが部屋に入って来た。
「起きて待っていてくれたの?」
「このひと月、家庭内別居だったからな。ハニと今夜はきっちりと話さないといけないし。」
皮肉って言うと、ビクッとして驚くハニを見るのを昔は面白がっていたが、最近は若い頃の様に面白いと思うより、少し胸が痛む感じがする。
「きっちりと・・・・・って・・・・何の話をするの?」
ハニをからかうのは少々胸が痛むが、結婚して何十年も経ち孫もいるのに、オレは結構子供なのかからかうのを止められない。
「何を話すか、それともするか・・・・・」
「す・・・するって・・・・何を・・・・」
「オレ達は夫婦だからな、この時間にすることは一つ・・・・」
おかしくてたまらない。
パジャマの胸元のレースをギュッと握って顔を引きつらせるハニを見ると、今にも吹き出したくて仕方がない。
「ハニが大きな声を出そうが、色っぽい声を遠慮なく出して泣こうが・・・・・・・ミレとフィマンはもう眠っているし、離れにいるお袋の耳には聞こえない。」
「スンジョ君・・・ひと月スンジョ君と一緒のベッドで眠らなかったけど、変わった事はしないで・・・・普通に・・いつもの通りで・・・若い子たちじゃないからあまり・・・・・」
「あまり・・・・・?」
「過激な事には挑戦する年齢じゃないし・・・・・」
さすがにこれ以上ハニを困らせると、本当にひと月ぶりのハニにキスするどころか触れる事も出来なくなるな。
「しないよ・・・・ただ話を聞きたいだけだ。」
「話?」
持っていた本をスンジョは閉じて、掛け布団を上げてハニをが入れるようにすると、ひと月前と変わらない様子で入って来た。
「どうしてオレを避けているんだ?」
「避けているって言うか・・・・・・・」
何を戸惑っているのか、スンジョの問いに答えないハニにどうしても理由を聞きたくて仕方が無かった。 思い切って若い時と同じように、ハニの口から本当の理由を聞き出す事にした。
「ハニ・・・・もうオレは我慢できない・・覚悟しろよ。助けを求めても誰も来ないから。」
「え・・・・え・・・・きゃ!嫌・・嫌!止めて・・・・・・・・」
鼓膜が破れそうな大きなハニの声に、さすがにミレとフィマンが眠っていてグミが離れにいると判っていても、ご近所にも聞こえるかと思う声をいつまでも出していては、外を歩く事も出来ない。
「嫌ならちゃんと言ってくれないとオレは困るんだけど。」
「言う・・・言うから・・・脇腹を擽らないで(くすぐらないで)」
ハニの脇腹を擽るのを止めて、ハニが話すことを待った。
「初めてだから・・・・」
初めて?
「高校3年の時にこの家に来て、初めてふたりっきりになったから・・・・・お母さんが親戚の家に行ってお父さんとパパがいなくてふたりっきりになった時と、スンジョ君が大学の時に一人暮らしのマンションに行った時もあったけど、本当はふたりっきりになったのは初めてで、どう過ごしたらいいのか、スンジョ君と何を話したらいいのか判らなくて・・・・ふたりっきりと思ったら恥ずかしくって・・・」
「そう言えばそうだな。完全にふたりっきりになったのは初めてだな。」
「どうしたらいいのか判らなくて・・・・スンジョ君には悪いけど、一緒に眠るのも急に恥ずかしく思えて。」
「そうか・・・じゃあ、家庭内別居にするか?」
こんな風に言うと、昔と同じようにハニは首を横に振る。
「それは・・・・・・このひと月、スンジョ君とキスも出来ないし、何もしていないと寂しかった・・・・」
その一言は、スンジョにとってハニがとても可愛らしい妻に思えて、この世に生を受けて初めて知った愛おしさと言う感情だった。
そんなハニとの時間をスンジョは、ひと月ぶりに朝まで大切に過ごした。
0コメント