未来の光(スング) 10
慣れない土地での慣れない生活も、ひと月も経てば少しずつ馴染んでくる。
いくら父の従兄弟だから気を遣わなくてもいいと言っても、それなりにスングも気は使う。
が、母であるハニは別だった。
5月の連休に帰国しなかったことで、毎週日曜日スングの携帯に電話を掛けて来る。
必ずその時に言う事は、いつも同じだ。
『寂しいからスングに会いたい。絶対に夏の長期休暇には帰って来て!』
だった。
どうか、今日はお母さんからの電話が掛って来ませんように。
パンパンと柏手を打って、携帯を拝んだ。
「スングくぅ~ん、お客様よ。とってもかわいい女の子ぉ~」
「ありがとうございます。」
優花とは言葉の取り方を思い違いして気まずくなった時もあったが、誤解が解けた後はよく二人で会っていた。
初めて自分の下宿先に優花を招待したスング。
智樹と琴葉に世話を掛けさせないと言う父との約束があるから、下宿先に呼んでいいものかと迷ったが、まだバイトも始めていないスングは、親からの仕送りを無駄に使う事が出来ない。
優花の両親に隠れて付き合っている訳でもないから、優花の自宅で一緒に勉強をしたりお互いの国の言葉を教え合ったりはしていたが、両親が留守になったこの日は初めて下宿先に招待をした。
部屋を出て階段を降りると、琴葉が小柄な優花を可愛い可愛いと言って手を握っていた。
「スング君、可愛い子ね。小っちゃくて・・・私の手と比べるとこんなに小っちゃくて可愛い・・・・・韓国のハニさんに報告をしないと・・・・・」
「琴葉おばさん、お母さんには内緒にしてください。ご存知だと思いますが、ミレとフィマンとおばあちゃんの事を放っておいてでも飛んでくると厄介ですから。」
「そ・・・・そうね・・・・・」
「行こうか?二階の一番奥の部屋なんだ。」
優花は靴を脱ぐときちんと揃えて、琴葉に挨拶をしてスングの後に付いた。
こんな時スングは琴葉がどうしたいのかよく判る。
「琴葉おばさん、飲み物とおやつも要りませんから。」
「そ・・・・そう・・・・・」
ハニと似ている琴葉だから、スングは琴葉がどうしたいのかもよく判る。
「おばさんに、ちょっとあの言い方って・・・・・・・」
「良くないとは分かっているけど、琴葉おばさんはお母さんと似ているから、どんな行動をするのか判るんだ。きっとああ言っても、部屋の外でドアに耳を当てて聞いているよ。散らかっているけど、入って・・・・・」
「お邪魔しまぁ~す。」
キチンと片付けられたスングの部屋に、初めて人が入った。
優花が思ってもいないくらいに綺麗にスングの部屋は片付けられていた。
「おばさんが片付けてくれるの?」
「いや・・・・自分が借りている部屋は自分で掃除をしているよ。簡単な調理も出来る様に、オレがこっちに来る前にミニキッチンも作ってくれたよ。」
部屋の隅に設置されているミニキッチン。
冷蔵庫から優花の好きな缶入りのカフェオレを持って来た。
0コメント