思わぬ同居人 10
入りこみ始め食後の片づけの時のお袋とハニの話し声が煩いと思ったのは、アイツが来て数日の間だけ。
アイツが来てからお袋の楽しい笑い声を聞いて、アイツと話していることに耳を澄ませている自分が、いつの間にか普通の事になっている。
僅か数日のうちに、アイツはオレの心の中に入りこみ始めていた。
来週の中間テストの勉強をすると言っていたアイツの部屋の前を通ると、ドアの隙間から薄暗い廊下に漏れている室内の灯り。
「風呂に入れよ。」
「はぁ~い、ありがとう。」
『ありがとう』と素直に言えるアイツが羨ましくも思う。
オレが部屋に入って暫くすると、お袋が二階に上がってくる足音が聞こえ、アイツの部屋に入って行くのが判った。
すぐ隣のアイツの部屋で、お袋と二人で楽しそうに話している声に、聞き耳を立てるわけでもなく気になっていた。
「寝かせてくれよ、もう9時だろう。」
寝返りを打って気分が変わってようやく眠れたが、まさかお袋があんなことをするとは思わなかった。
「スンジョ着替えないのか?」
スンジョがカバンから出してみた体操服は、自分が着る物よりも小さい女子用の体操服。
「仕組んだな・・・・・お袋。」
スンジョは、体操服をまたカバンの中に入れてハニのクラスまで急いだ。
行きたくもない最低のクラスの7クラス。
頭の程度が判りそうなごみの落ちている7クラス付近の廊下。
大きな声で騒いでいる教室の中で、アイツを捜すと太った女の子と、背の高いまぁ少しは真面そうな女と、スンジョが一番苦手なポン・ジュングが集まっている。
大きく深呼吸をしてスンジョはハニを呼んだ。
「オ・ハニさん。」
アイツはオレの声が聞こえなかったようで、傍にいたメガネの背の高い女の子が、ハニにオレが呼んだことを教えていた。
吃驚したようなアイツに向かって、手招きをした。
「なに?」
周りの注目が鬱陶しいが、体操服を変えてもらわなければいけない。
「カバンの中に体操服を入れて、中庭に来い。」
「体操服?どうして?」
「何でもいいから・・・・・」
スンジョはそう言うと、クルッと向きを変えて中庭に向かった。
中庭のよく分かる木の傍で待っていると、なにがおかしいのかアイツは笑いながら走って来た。
スンジョは体操服をカバンから出して、アイツに交換するようにグイッと突きつけた。
「お袋が仕組んだのかそれとも間違えたのか、サッサと代えてくれ。」
「女の子の体操服でも着ればいいじゃない。あぁ、そのうち女の子の制服も着るんじゃない?」
「何だって?どういう意味だ。」
まさか・・・・あのオレの黒い過去を知っているのか?
アイツはオレに挑むような目で、制服のポケットから一枚の写真を取り出した。
隠したいブラックな過去の写真。
もう全て捨てたと思っていた、女の子のペク・スンジョの写真。
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