思わぬ同居人 83
他愛も無い話をしていても、ヘラとは気を使うことも無いが、何か気持が満たされない。
作り笑いをして恋人の振りをしながら歩くオレに、ヘラはある意味勝ち誇ったような顔をして腕を絡ませてくる。
ヘラの腕に違和を感じるのは何だろう。
ハニはオレとこんな風にデートをしたかったのだろう。
「ハニが知ったらどう思うかしら?」
どきっとスンジョの胸が跳ねるように動いた。
「どうって・・・・」
「ハニはあなたとこんな風に、デートをしたかったのじゃない?」
オレの考えていた事が判ったはずはないと思うが、考えが似ているからそう言ったのだろう。
出来るだけ普通に話そうと思っていても、いくらあまり雄弁に話さなくても言葉を出すのがこんなに辛いと思ったことはない。
「さぁ~、アイツはオレの事を好きだと言っても、中学生並の付き合いしか考えていないだろう。」
隣でオレの腕に自分の腕を絡めて歩いているヘラがクスッと笑った。
「どうかしたの?」
「そう言えば、テニスの合宿で告白した時の返事を聞いていないわ。」
「もうその返事は、いらないのじゃないか?こうして見合いをして、結婚をするのだから。」
「こう見えても私は女の子よ。告白したのに、好きな男性から返事を貰えないのは悲しいわ。聞かせてくれないあの時の返事を。」
あの時は、ギョンス先輩とハニが陰から見ていた事を知っていて、はぐらかす様にハニにテニスの特訓があると言ってあの場を離れた。
あの時にオレがヘラの告白に返事をしていたら、今のこの状況が無かったかもしれない。
「嫌いじゃないよ。」
「フフ・・・・嫌いじゃない・・・・ね、好きとは言ってくれないのね。」
ハニにも同じことは言った事があった。
あの時はオレとヘラが映画を観に行った時に、付けて来た事を落ち込みながら謝っていたハニに自分の気持ちを自分なりにはっきりと伝えた。
嫌いじゃない
好きだと言うことがよく判らないが、嫌いではない事だけはどうしても伝えたかった。
「嫌いじゃないと言うのね、はっきりと好きと言ってくれれば、ハニとあなたを張り合っていて勝ったと思えたけど・・・・・」
「勝った?」
「冗談よ・・・ハッキリと好きと言ってくれれば、お金の為にお見合いをした事を忘れてあげたのに。なんだか傷付くわ・・・」
「ゴメン・・」
「もう、謝らないでよ。これがハニだったら、嫌いと言わないだけでも良かったと思えと言うのじゃないの?」
「そう言うかな?」
「そうよ。」
ヘラの気持ちを思うと、延々と話をしているくらいにオレと見合いをして嬉しさを表すのに水を差す気持ちにはなれないが、オレはもしかしたらハニに対して特別の感情を持っているのかもしれない。
ヘラと別れて帰宅する道中、運転をしながらハニの顔を思うと、ただただ見合いをした事を後悔している気がする。
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