思わぬ同居人 132
新婚旅行に出発する時の定番のデコレーションを施した車が普通は停まっているが、スンジョとハニが結婚式を挙げたホテルの前には、ごく普通のタクシーが停まっているだけだった。
「ねぇ、ハニ・・このタクシーで行くの?」
「後悔はしない?」
「しないよ。どうして?」
「だってさ・・・定番じゃないの。」
ハニがミナ達と話している内容はスンジョには聞こえていたが、披露宴でのスンジョのブラックな過去を公表されて機嫌が悪いままだった。
ハニが知っているのは、幼稚園の時のあの写真の一枚。
まさか生まれた時から女の子の格好をしていたとは思ってもいなかっただろうし、ハニの写真と比べても女のハニの方よりもオレの方が女の子に見えたのだから、内心ハニもあまり気分はよくなかったはずだ。
「おばさんが・・・」
「おばさんじゃないでしょ!」
「お・・おかあさん・・・が・・・デコレーションを頼みたかったみたいなのだけど、色々と考えていたら時間が無くなって・・・・」
何が『時間が無くなって』だよ。
お前もお袋と一緒になって、あれも付けてこれも付けてと注文していたら時間が掛るから無理だと言われただろう。
まぁ、注文をしたのはお袋で、お前はそれに合わせて笑っていただけだけどな。
「ハニ、行くぞ。飛行機の時間に間に合わなくなる。」
「あっ・・・はい。」
ピョンと飛ぶようにして、タクシーの後部座席に先に乗っているスンジョの横に座ると、ハニは運転手に窓を開けてもらい、顔を出して見送りに来ている人たちに笑顔で手を振っているハニには何も問題はないが、結婚式をしたと言っても何も変わらない関係のままのような気がしていた。
「ふふ・・・・お揃いね・・・・・」
「・・・・・・」
「おばさんが選んだのじゃなくて、ふたりで選んだのだからもっと幸せそうな顔をしてよ。」
「まさかここからこれを着て行くとは思ってもいなかったよ。」
「じゃあ、どこで着替えるつもりだったの?」
「どこでって・・・・まぁ、どこでもいいだろう。」
適当に話を終わらせないと、タクシーの運転手はオレ達が結婚直後に喧嘩をしたと思われる。
適当な事を言って、ハニとの話を変えるしかない。
が、オレのイライラは一向に治まらなかった。
隠したい過去はこれっきりにしてくれないと、いつか親になった時にオレ達の子供にもブラックな過去を教えかねないから。
空港に到着すると、ハニ初めて飛行機に乗ると言って緊張をして青い顔をしていた。
オレ達が乗る飛行機は、搭乗手続きがすでに始まっていたから、青い顔をしているハニが心配だったが、急いで荷物をチェックインカウンターで預けて、そのまま搭乗ゲートに移動して飛行機に乗り込んだ。
秋の旅行シーズンもあって、座席は満席。
安全ベルトをうまく締める事が出来ないハニを見て、オレは無言で締めた。
「ありがとう・・・・」
オレが無言でいると、ハニは怒っていると思うだろう。
確かに、お袋がした事はまだオレの心で怒りとして残っているが、これから先ずっとハニをどう守って行くのかを考えると、披露宴でのことを半分は忘れていた。
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