思わぬ同居人 140
ハニの顔が変わった。
勿論オレも顔が変わったのだろうけど、当然のことだが他人が見たら変わったように見えていないだろう。
「何だろうね、こんな時間に。」
「さぁね・・・」
スンジョは、ゆっくりと立ち上がってドアののぞき窓から外を見た。
「誰?ホテルの人?」
「違う・・・・例の夫婦の夫の方だ。」
この済州島だけでの付き合いだから、嫌な顔をしていては嫌な思い出しか残らない。
結婚をしたのなら大人としての付き合いをするのも、一人の女性を守るのも夫の役割かもしれない。
のぞき窓からもう一度外を見てドアをけると、あの迷惑夫婦の夫が顔色を変えて立っていた。
「遅い時間にすみません・・・・お休み中でしたか?」
パジャマ姿のスンジョと、その後ろに立っているハニを見て迷惑女の夫が聞いた。
「いえ、話をしていただけです。どうかしたのですか?」
「妻が急に具合が悪くなって、スンジョさんは医学生だとおっしゃっていたので、診てもらえないかと・・・・」
「ホテルの支配人に往診を頼んだ方がいいですよ。医学生ですが医者ではないので何も出来ないですよ。」
「構いません・・・・こんなに遅い時間に往診を頼んでも・・・それに妻が、知らない土地でいい医師か知らないので診てもらえないと・・・・」
「判りました、着替えて部屋に行きますので、戻って待っていてください。」
医師免許がないから診断は出来ないが、多少の知識はある。
どんなに嫌な相手でも、具合が悪いのなら診ないわけにはいかなかった。
「行くの?」
「行かないと。」
「だって・・・あの女の人・・・嫌だな・・・」
「嫌でも、今は急病で困っているのだから。ハニは部屋で先に寝ていろよ。」
ハニは首を横に振った。
それこそ知らない土地に独りでポツンとしているのは、寂しい事は寂しいと思ったことも無いスンジョにでも判る。
「外に出るから一枚羽織って行けよ。新婚旅行先で風邪をひかれては困るからな。」
着替えを終えたスンジョは、寝室で着替えているハニを待っていた。
秋の夜は昼間よりも寒さを感じた。
スンジョの後ろを歩いているハニが、ブルッと身震いをしたのを先を歩いているスンジョにも伝わった。
スンジョ達が部屋に着くと、迷惑女の頼りない夫はドアの外でオロオロとしていた。
「良かった!来てくださって・・・妻が、痛みが強くて吐きそうだけど吐けないと言って・・・・」
「奥さんの身体の具合を診ますが、私は医師ではなくて医学生なので参考にするだけにしてください。」
「勿論、判っています。」
診断をしたと言われたら、医師法違反になる。
面倒な女の所為で面倒なことになる事だけはしたくない。
大袈裟過ぎるほどの苦しみ様に、スンジョは女の顔色も問題ないからもしかしたらと、部屋に入って直ぐにそう思った。
「どの辺が痛いですか?」
「ここが・・・・・」
「いつから痛みますか?」
「彼と一緒に食事から戻ってから・・・・・・あ~痛い・・」
「触診しますよ・・・・ここですか?」
「違うわ・・・もっと上・・・・」
オイオイ、腹が痛いのじゃないのか?
そこは胸だろう。
そう思った時に、部屋の入り口に立っていたハニが叫んだ。
「止めて!そんな女の身体なんかに触れないで!」
我慢をしていたハニの気持ちが、声となって訴えた。
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