声を出して 29
ハニのお母さんとおじさんが知り合ったいきさつは知らないが、この静かな村でハニのお母さんがここで眠っていると思うと、その景色や空気がハニの心に裏表がない理由がよく判る。
「スンジョ君、あの松の木を過ぎた所に交差する道を左折してくれるかな?」
「あっ、はい。」
「ナビを使えばいいのに・・・・・・」
「お前は、何度もヤンさんの所に行っているのに、車の中で菓子ばかり食っているから道を覚えていないんだ。」
「覚えていますよ!」
「覚えていたら、ナビを使わない方がいいのが判るはずだ。」
スンジョがギドンに言われた道を左折すると、急にスピードを落とした。
「そうですね。この田圃(たんぼ)道はナビでは表示されても判りにくいですね。」
「田圃に落ちないでよ。」
「落ちるほど運転が下手じゃないよ、スンジョ君は・・・・」
ハニが何を話してもスンジョは応えてくれない。
何かいつもと違う感じのスンジョに、ハニはつまらなそうに口を尖らせた。
地震で家が崩壊してからは、大学が忙しくてギドンだけが店が休みの時に一人で来ていた。
ハニが、ここに来たのは中学まで。
その頃にはヤンさんの娘は町の高校に通うためには大変だからと、どこかに下宿をして通っていると言っていた。
少し景色が変わって感じるのは、自分だけじゃなくギドンも同じだった。
「村も若い子が都会に出て行ったから、空き家が多いな・・・ヤンさんの娘のボラちゃんがいると、ハニも嬉しいだろう。」
微妙だった。
男の子だと思っていたから、ヤンさんの話が出た時は嬉しかったが、女の子だと聞いたら急にスンジョと行く事に不安になって来た。
「あの、白い屋根に青い壁の家だ。」
「この辺の村にしてはお洒落な建物ですね。」
「ボラちゃんが、大学を出て戻って来た時に、カフェにしたと聞いたよ。農業だけではこの先やっていけないからな。」
たしかに、村の開発事業計画でもあるのか、観光地にしようと言う計画の看板があちこちに建てられている。
懐かしそうに見る余裕もなく、ヤンさんの元家だったカフェの駐車場に車を停めると、準備中と書かれているプレートの掛ったドアが開いた。
カフェの中からすらっと背の高いショートカットの顔立ちが整った綺麗な女性が出て来た。
だ・・・誰・・・・・ボラ君・・・・・
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