声を出して 30
日焼けをしていてもその顔が美人だと判る。
「おじさん、いらっしゃい!」
中学生の時以来会っていなくて、その女性(ひと)がボラだと声を聞かなくても判る。
後部座席からギドンが降りると、運転席に座っているスンジョも降りた。
「大人になったな、ボラは。」
「おじさん、去年も会ったのに・・・老けたのよ。」
ボラはギドンの横にいるスンジョに、軽く会釈をした。
「電話で話していた、ハニちゃんの婚約者ね。」
「初めまして、スンジョです。」
ギドンは少しかがんで車に乗っているハニに、早く降りて来いと手招きをした。
「何をしているんだ、早く降りてボラに挨拶をしないと。」
昔の面影とは違って、美人で頭が良さそうでスンジョの理想の女性の様にハニには見える。
「こんにちわ・・・・お久しぶりです・・・・・・」
「ハニちゃん、こんにちわ・・・・昔と変わらないわね。私と一つしか違わないのに、私っておばさんになったでしょ?」
「いえ、全然・・・・」
こんな言い方をした人だっけ? 男の子だと思い込むほど、男の子の話し方をしたのに。
女の子の恰好をしていたスンジョと、男の子の恰好をしていたボラ。
共通の話題にでもなりそうな二人だ。
「おじさん、店の中に入って。疲れたのじゃない?」
「ワシは慣れているけど、スンジョ君が付かれていると思うよ。家内の墓までは、ここに車を置いたら歩いて行かないといけない。少しいつもここで休んでから行くんだ。」
三人はボラが開けた店のドアから店内に入った。
田舎には似つかわしくないお洒落な内装。
勧められるまま椅子に腰かけると、ボラが『ハニちゃんとおじさんはいつものね』と言い、スンジョにだけオーダーを聞いて厨房に入って行った。
農家のヤン家の一人娘が跡を取らず、カフェを経営するとは思ってもいなかった。
店内を何も考えずにただ眺めていると、不意に胸に何かが触れて来た感触にハニは悲鳴をあげた。
「キャー」
その声で厨房の中にいたボラが飛び出してきた。
「こら!ジウン!」
ジウン?
低い所からハニを見上げる、日に焼けた昔のボラのコピーのような子供と目が合った。
その子供はハニと目が合った瞬間に、アッカンベーをして言った。
「ぺっちゃんこ!」
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