声を出して 46
カタカタと食器の音を立てながら階段を下りると、グミとスチャンとギドンがウッドテラスで話をしていた。
「気が付けば結婚式ももう数日後ね。」
「本当だね。ママが<その日はお兄ちゃんの結婚式だから・・・>って言った時は驚いたよ。」
「ワシもだ。もう少し父と娘とふたりだけの時間があると思っていたからね・・・・」
「ごめんなさいね、ギドンさん。スンジョの宣言に私が出過ぎた事をしてしまって・・・・」
大人たちの話を聞くのはいけないとは思うが、食べた食器をそのままにしておくわけにもいかなかった。
足音を忍ばせて、また2階に引き上げて洗面所でカップとスプーンを洗う事にした。
2階の洗面所には、一寸した食器が洗えるようにスポンジと食器洗いの洗剤が置いてあってよかったと思った。
そう思う事と反対に、聞かなかった方がよかったような気がする。
ギドンの寂しい声が、心に染み入って来るようで、もう少し自分もギドンとの生活を楽しみたかったと言う思いはあった。
「何だ、キッチンに持って行ったのじゃないんだ。」
「うん・・・・ウッドデッキで大人たちが話しているのを聞いたらね・・・・・・」
「何を話していたんだ?」
「気が付けば結婚式も数日ね・・・・とおばさんが言って・・・パパが、≪もう少し父と娘の時間があると思っていた・・・>って・・・それを聞いたら、私って片想いをしていたスンジョ君がヘラとお見合いをして地獄にいるように辛い思いをしていたところから、スンジョ君が他の男を好きだと言うな・・・って言って・・・大人たちの前で結婚宣言をしてくれて、天国にいるくらいに幸せな毎日を送っていたけど、パパと話もしなかった事に気が付いて・・・・・」
ズッと鼻水をすする音が聞こえると、洗面台に置かれている手に涙がポトリと落ちた。
「結婚してもこの家に住むのだから、父親の店を手伝ったり、母親の墓参りに一緒に行けばいいさ。夫婦の縁は切れる事が出来ても、親子の縁は切れないし一生親子でいられるのだから。」
スンジョの優しい声が、ハニの心を包むようにふわっと軽くさせてくれる。
こんな風に優しく話をしてくれるスンジョの気持ちを、今まで一度も気が付く事はなかった。
「そうだね・・・でも・・・」
「でも?」
「私と離婚・・・しないでね。私にはスンジョ君だけだから。」
「判っているよ。オレにもハニしかいないから・・・・」
「え?」
思ってもいないスンジョの言葉に、ハニは聞き間違いではないかと思い顔を見上げたが、スンジョはハニに顔を見られないように、その顔を自分の胸に抑えて抱きしめた。
「なんて言ったの?もう一度言って。」
「2度と言わない。聞きもらしたのなら、それはお前が悪いのだから・・・」
温かいお互いの身体の温もりに、時間が止まったような気がした。
その時、背後でトントンと床を踏む足音と、咳ばらいが聞こえた。
「ウンジョ・・・」
「小学生の弟がいる事を、忘れないで欲しいな。」
赤い顔をして、視線を合わせないようにふたりの横を通り過ぎて歯磨きを始めた。
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