最後の雨 25
ポツンとスンジョの席に取り残された、湯気と独特の臭いの立ったハニ特製のお粥。
「折角かわいい妻が、愛する夫の為にお粥を作ったのに、いったい何が気に入らないのかしら・・・・・・・」
「おい!馬鹿オ・ハニ!」
「これ!その言い方は止めて、ウンジョはいい加減にお義姉さんって言いなさいな。」
「だってママ・・・・このお粥の匂いを嗅いだら、お兄ちゃん身体壊しちゃうよ。なんか・・・・臭い・・・・・何を入れたんだよ。」
ハニはウンジョに言われてお粥の匂いを嗅いだ。
「別に腐っていないわよ・・・・・でも・・・・臭いのは身体にいい物を入れたから・・・・・大蒜に韮に・・・・人参(高麗人参)でしょ?それからこの間漢方薬のお店で、疲れた時に飲んでくださいって言われたお薬・・・・・・」
ハニは漢方薬の袋を掲げて中から注意事項を書かれた紙を取り出した。
「煎じて飲んでください・・・・煎じて・・・・・あまり一度に大量の煎じた物を飲むと・・・・・こ・・・・・・えっ・・・・やだ・・・・。」
顔を赤くしてその注意書き書をポケットに隠した。
「もしかしてハニちゃん・・・・煎じてって・・・・洗ったとか・・・・」
「洗いました・・・・・・煎じてって洗うことだと思って・・・違うんですか?」
グミは手を出して注意書き書をハニから貰った。
「大丈夫だけど・・・・・ハニちゃんったら・・・やだ・・・・そうだったの・・・・何も知らなくて。」
キョトンとグミとハニの顔を見比べているウンジョは、不思議そうにしていた。
「お母さん、これは私が責任を持って食べます。スンジョ君に私の夕飯を持って行くので、食べていてください。」
ハニはそう言うと、トレイに自分の夕食を乗せて二階に上がって行った。
静かにドアを開けるとスンジョは、机に向かってパソコンで調べ物をしていた。
「ゴメンね・・・・あれはちょっと臭くて食べられないわよね。私がお粥を食べるから、スンジョ君は私の夕食を食べて。」
ハニはトレイを持ってスンジョの傍に行くと、聞こえていないのかスンジョは振り返りもしないでパソコンのキーを叩いていた。
「これ、熱いうちに食べて・・・・ここの端に奥から・・・・・」
机の上の空いているスペースに、ハニは静かにトレイを置いた。
「邪魔だ!」
スンジョはそう言って、行き成り腕を動かした。
その瞬間、トレイは机の端からバランスを崩して床に落ちた。
「きゃぁー!!!熱い!」
ハニの悲鳴で、スンジョは我に返ったようにトレイの落ちた方を見た。
熱い夕食のおかずと汁物がハニの足に掛り、白い足が真っ赤になっている。
ハニは赤くなっている足の痛みを堪えながら、床に転がっている食器と散らばったおかずを掻き集めていた
「何をやっているんだよ。早く冷やさないと。」
「大丈夫・・・・大丈夫だから・・・・・ゴメンね、勉強を邪・・・・・・・」
スンジョはハニを抱き上げて、肩でドアを開けてバスルームに走った。
二階でハニの悲鳴と、食器の落ちる音がしたことに驚いたグミとウンジョがリビングから上がって来た時、ハニを抱いたスンジョがバスルームに入るのを見た。
「どうしたのよ、お兄ちゃん。」
「何でもないよ。」
「何でもないって・・・・ハニちゃんの足が赤くなっているじゃない。」
「ゴメンなさい・・・ゴメンなさい」
ハニはハニでスンジョに足に水を掛けられている間、ただ何度も何度も謝り続けていた。
「お袋、冷やす物と火傷の薬を持って来てくれ。」
「火傷って・・・・・・」
「トレイをひっくり返したんだ。いいからすぐにオレの部屋に置いておいてくれ。後はオレがするから下に降りて行ってくれ。」
ベッドの端に座ってハニの足の赤くなっているところに、火傷の薬を塗りながら自分のした事に改めて気づいた。
自分らしくないことをしたと判ってはいたが、少し前ならこんな風にカッとした行動でハニに怪我をさせたりはしなかった。
「悪かった、ちょっとパソコンの方に夢中になり過ぎた。痕にはならないと思うけど、今夜はなるべく冷やしてシャワーだけにしておけよ。」
「 痕になってもいいよ。そんなの私気にしていないから、大体私ってそそっかしいから。ゴメンね」
「謝るなよ・・・・・オレが悪いんだから。」
スンジョが分けの分からない自分の心の奥のモヤモヤが原因で起こしたハニの火傷。
もう二度と泣かせない傷つけないと誓ったのに、自分の気持ちがどうしたらいいのか判らない思いに戸惑っていた。
火傷を負わせたのに、自分を見るハニの嬉しそうな顔があまりにも純粋な笑顔で、胸に杭が突き刺さるようだった。
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