最後の雨 24
ハニが決心をして駆血帯を巻こうとした瞬間に、スンジョは差し出していた腕をまた引いた。
「スンジョ君?」
「そいつにやって貰え。」
「スンジョ君、腕を貸してくれるって・・・・・・・・」
上着を持って立ち上がったスンジョに続いてハニも立ち上がった。
「不器用なお前だ。練習とテスト本番で人が変わると、お前のことだからまた失敗するだろう。」
「でも・・・・・・・」
シャツの裾を握っているハニの手を、スンジョは力を入れて払い除けた。
「本屋に取り寄せてもらった本を取に行って来る。」
急に不機嫌になったスンジョに、ハニはどうしたらいいのか判らなかった。
「また、私ったら余計な事でも言ったのかなぁ?スンジョ君、最近忙しくて疲れているからなのかもしれない。そうだ!!栄養たっぷりのお粥でも作ったら、疲れが取れていいかもしれない。」
ハニは夕食の準備をグミが始めている時間だと気が付くと、急いでキッチンまで降りて行った。
キッチンには本屋に行くと言っていたはずのスンジョが、グミと話をしながら水を飲んでいた。
スンジョはハニの姿を見ると、不機嫌な顔のまま飲み終わったコップをシンクに置いて、まるでハニがそこに立っていることなど気が付かないように玄関に向かった。
「スンジョ!早く帰って来てよ。久しぶりにハニちゃんと揃っての夕食なんだから・・・・・・・」
返事をしないで出て行ったスンジョに気が付くと、グミはブツブツと言いながらリビングの方まで出て来た。
「本当に無愛想なんだから!何が気に入らないのか、ブスッとして・・・・・あら?ハニちゃん、具合が悪かったんじゃないの?」
「いえ・・・・採血の練習キットを借りて来たので練習しようと思って。」
「まぁまぁ・・・・・ハニちゃんはよく努力をするのね。お兄ちゃんは、そこのところを判っていないのよ。」
「練習キットってさ、結局は学校で出来ないから家でもっと練習をしろってことジャン」
「まっ!ウンジョはいつになったらハニちゃんに、『頑張っているねぇ』って言えるようになるのよ。」
「長ぁ~い未来のことだろうね。それも、お兄ちゃんに見捨てられなければの話しだけどね。」
「いい加減にしなさい!ウンジョも中学生でしょ。いつまでもお兄ちゃんの真似ばかりしていていないで、もう少し女性を労わらないと彼女は出来ないわよ。」
家の中をグミに追われて逃げ廻っている姿を、ハニはいつもと変わらない様子で見ていた。
「お母さん、スンジョ君疲れているみたいなんです。だから、ここの所帰るのも遅くて忙しかったスンジョ君に 栄養のある物を作ってあげたいのですけど。」
「いいわよぉ~ハニちゃんの作ったお夕食を食べればきっとスンジョも元気になるわね。」
何も知らないグミとハニは、スンジョが不機嫌なのは疲れているからなのだと思っていた。
家を出て2時間ほどしてスンジョが戻ってくると、家の中は異様な臭いが充満していた。
わざと時間を掛けて外出していたスンジョだが、グミもハニもリビングのソファーで並んで座り、スンジョが帰宅するのを待っていた。
「お帰りぃ、すぐに用意するからね。」
ハニはスンジョの不機嫌な理由が判らないため、失敗をして更にスンジョの機嫌が悪くなる事を心配していた。
スンジョの目の前に並べられた、スンジョの為にハニが作った栄養のある夕食。
ウンジョがその匂いの強烈なことに文句を言っても、スンジョはそれさえも無視をして全く聞いていなかった。
「スンジョ、ハニちゃんがお兄ちゃんの為に作ってくれたお粥よ。」
少しすくうだけでも漂う臭いに、スンジョの眉間にしわが入った。
「みんなと同じ物を・・・・・・・」
「疲れているから、ハニちゃんの作った栄養たっぷりの愛情お粥の方がいいわよ。」
「別に疲れていないから、みんなと同じ夕飯にしてくれよ。」
「あなたの分はハニちゃんのお粥しかないわ。疲れているのだからお粥にしておいたら?」
グミの言う事すら気に入らないのか、スンジョは椅子を引いて立ち上がった。
「判ったよ。夕飯がこれなら下げてくれよ。もう寝るから。」
スンジョは苛立った声で、誰ともなしに言うとそのまま二階の部屋に上がって行った。
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