最後の雨 83
オレのお袋と親父は、見ているだけでも不仲だと判るくらい最悪だった。
お袋は、親父に何を言われても文句ひとつ言わないで黙って付いて行くだけだった。
親父と言えば、お袋に冷たくて病気になって入院しても見舞いに来なかっし、心配して様子を聞くことも無かった。
「母さん、父さんは母さんの事を嫌いなのかなぁ・・・・」
「父さんはね 、本当は優しい人なの。ただちょっと、愛情表現が上手く出来ないだけよ。ギョルは、好きな人が出来たら優しくしてあげてね。」
「でもさぁ・・・ギョル・・・・・ぅっぷ・・・・人はみんな愛情の表し方は違うよ。ギョルの話だと、確かにハニと旦那もそんな感じかも知れない。」
「感じかもじゃなくて・・・・そうなんだよぉ・・・・」
「でもね・・・・・ぅっ・・・・・・・ハニと旦那は、ギョルが思っているほど悪くなかったと思うよ。ギョルが・・・さ・・・・」
「オレが何だよ・・・・オレが、二人の仲を悪くしたって言うのかよ。」
「ある意味・・・・そう思う。」
判っている。
ハニが最初に家を教えたくなかったのだって、結婚していることをバレたくないだけじゃなくて、あの完璧人間ペク・スンジョの妻が何も出来ないどんくさい人間だと思われてはいけないと思ったからだろう。
冷静に考えれば、アイツがハニを選んだ理由が判る。
「普通なら、自分が無理だと思ったらすぐに諦めるのだろうが、ハニは出来ないことも悩みながらやり遂げてしまう。頭も悪いしいい加減諦めろと言いたくなるよ。」
「へぇー判ってるじゃないの、ハニの事。お母さんの事もそんな風に見ていたから判るんだね。」
ギョルは飲み干した完ビールの缶を、ギュッと握りつぶしてもう一缶開けようとしたが、手を引っ込めてゴロンと床に寝転んだ。
「似ているのはそこまでだ・・・・・・」
「そこまで?」
「お袋は、結局何度も入退院を繰り返して、癌になった挙句に逝っちまったからなぁ・・・・・・・ハニは・・・・・アイツと上手く行かなくなり始めたころから、オレと話をよくするようになっていた気もしたけど、最初にオレと会った時のような笑顔じゃないんだよな・・・・・丸見えだった心が、蓋をしたように見えなくなってさ・・・・・・・医学部に近い場所に行ったりすると笑顔さえ消えて・・・・・生きていることに絶望しているみたいでさ・・・・・・・結局は・・・・・・あいつ・・ペク・スンジョもも同じ表情を・・・・・してた・・・・・見たら・・・・・・二人は・・・・・・・・・・G・・・・・・・・gggg・・・・・・」
ギョルはそのままイビキを掻いて眠りに入って行った。
ミンジュはその様子を見て、近くに置いて有った毛布を引っ張り、ギョルの身体に掛けた。
「眠れば少しは癒されるよね。本当はギョルだって判っていたはず。ハニはどんなに笑いかけてくれていても、その笑顔はペク・スンジョに向けられているって。ペク・スンジョも、どこからでもハニの笑顔を見つけられるって。それが今回はちょっとしたことでお互いにずれてしまっただけ。結婚している相手が、想いがあるのに引き離すようなことを出来ないことくらい判ってたよね・・・・・・・フゥワァ・・・・私も、眠いから寝かせてね。」
静かなギョルの部屋は、二人の寝息だけしか聞こえなくなった。
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