最後の雨 82

ヘウンとヒスンは、酔ったギョルをミンジュに任せて別れて帰宅した。

「ほら、ギョルしっかり歩きなさいよ。」

フラフラと足元が危なかしく、今にも倒れそうに歩くギョルを、ミンジュは身体を支えて歩いていた。

「終電も出ちゃったし、タクシーも来ないし・・・・・きっと日付が変わったのね。乙女の肌には十分な睡眠が必要なのにぃ~」

陽気なミンジュの声は、静かな町の中によく通った。

ギョルはそんな様子のミンジュが羨ましく感じる。

「お前・・・・・失恋は慣れているんだろ?」

「まっ・・・・何と・・・・・・こういう人間だからね・・・気持ちが悪がられたこともあったよ。」

素面(しらふ)なのかそれともまだ酔っているのか。

不思議に、ミンジュと一緒にいると、酔いが覚めて来たのか、気持ちが落ち着いて来ているのが自分にも判る。

「ヘウンもヒスンもいないから言ってごらんよ。こんな人間だけど、男の気持ちも女の気持ちも理解できると思うよ。」

「そうだな・・・・・オレん家に寄ってくか?」

「いいよ。明日には完全復活出来なくても、男がいつまでも振られた相手を想って引きずったらよくないからね。」

ギョルの家までは、公園からそれほど遠くはないが、二人は無言のまま歩いた。

車の通りも少ない時間、靴音だけがコツコツと響いて聞こえる。

一棟の古いアパートが見えてくると、歩きながらギョルはポケットの中の鍵を探した。

古いアパートの部屋のドアの鍵はガチャガチャと音を出して開けづらいのか、酔っているのかすぐには開かなかった。

「開けようか?」

「悪いな・・・」

女の子でもない男でもないミンジュは、何度も来ているギョルの部屋の鍵を、簡単に開けることが出来る。

ギョルの部屋は一人暮らしの男らしく、無駄なものもなく意外と小ざっぱりと片付いていた。

「ほら、お前も飲めよ。」

「今日は、私も付き合うよ。明日の朝には、今から話すことも忘れるかもしれないけど、あんたにはその方がいいよね。」

小さなテーブルに、冷蔵庫の中のビールを出し、つまみを小皿に乗せて、二人は向かい合って座った。

缶ビールのプルタブを上げてプシュッという音がして、こぼれそうになる 泡をすぐに呑み込んだ。

一口ほどビールを飲むと、ギョルは後ろを振り向いて小引出しから一枚の写真を出した。

「オレのお袋だ。」

初めて他人に見せるギョルの母親の写真。

子供みたいに笑う笑顔が、どこかハニと似ている。

「ギョルのお母さんって、子供の時に亡くなったんだよね。なんだか、ハニと似ているね。」

「似ているから、最初はアイツ・・・・ハニが嫌いだった。おまけにあのペク・スンジョも嫌いだったよ。親父と似ているから。」

初めて聞くギョルの両親の話に、ビールで酔ってはいけないような気がした。

ハニー's Room

スンジョだけしか好きになれないハニと、ハニの前でしか本当の自分になれないスンジョの物語は、永遠の私達の夢恋物語

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