スンジョの戸惑い 31
オレの夢ってなんだ?
考えたこともなかった。
心を閉ざした幼稚園の頃から、自分はどこか人と違うことを知っていた。
夢なんて現実的じゃなく、確実ではないから夢に付いて考えた事は今までなかった。
「お兄ちゃん、お風呂空いたよ。」
「ああ・・・ありがとう。」
ウンジョから風呂が空いたと言われ、着替えを持ってバスルームに向かった。
部屋を出てバルコニーの方を見ると、ハニが空を見上げてまるで空間に誰かがいるように独り言を言っていた。
「星に願い事をして叶うのならいいな。でも、叶わなかったよね。ママの病気を治してくださいって言ったのに、ママは死んじゃったし。」
そうか、ハニのお母さんは幼い頃に病気で亡くなったんだ。
「ママが死んでから淋しかった。でもね、パパのお友達のお家でお世話になることになって、そこのおばさんがすごく可愛がってくれるの。」
月明かりに照らされるハニの白い顔は儚げ(はかなげ)で、特別美人ではないのに綺麗だった。
「私ね・・・・・・・スンジョ君に振られたんだけど・・・・」
振られた・・・・・・その言葉にスンジョは胸が何故かキュゥ~ンと痛んだ。
「やっぱりスンジョ君が好き。学校のみんなが、ペク・スンジョは冷たくて氷みたいって言ったけど・・・・私は違うと思うの。スンジョ君は自分の気持ちをうまく伝えられないだけなの。」
ハニの独り言を聞きながら、スンジョはその空間だけが時間が止まったように思えた。
自分自身の事も知らないのに、頭が悪い子は嫌いだと言ったのに、本当はそんなことを言うつもりなどなかった。
素直になれない自分が、綺麗な心を持った女の子に冷たくて人を寄せ付けない言葉を言ったんだ。
それなのに、頭が悪いハニが本当のオレの事を知っている。
「お星様、もう一度お願いを聞いて。片思いのままでいいです。だけど、スンジョ君がホッとしてくれるそんな女の子にさせてください。」
ハニが両手をそっと合わせて目を瞑って祈った瞬間、後ろからフワッと大きくて温かい物に抱きしめられた。
「だれ?」
「振り向くな・・・・・このまま聞いてくれ。」
ハニの心臓はバクバクした。
スンジョの心臓もバクバクしていた。
「こんな気持ち初めてなんだ。他人など関心もなかったのに何故だろうか、お前が気になって仕方が無いんだ。」
抱きしめたハニの身体は思った以上に華奢で柔らかい。
間近で香る甘い香り・・・・・これが女の子の香りなんだろうか、不思議と気分が落ち着いてくる。
「お袋に見つかるとうるさいから・・・・・・ハニの部屋に行っていい?」
ハニはコクリと頷いた。
後ろを振り向かず、下を向いたままハニの後を付いて部屋に入っていった。
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