スンジョの戸惑い 87
「お前・・・何をやってんだ?」
顔から地面に突っ込んだ格好のハニは、声が聞こえる方に顔を上げた。
暗くてもハニにはそれが誰なのか判った。
「スンジョ君!!」
外灯の陰で判りにくいけれど、それが間違いなくスンジョで、片方の口角を上げて意地悪く笑っているのが判った。
「エッと・・・・・蟻の行列が・・・・・あ・・ったんだけど・・・・ないね・・・・」
苦し紛れに言った事くらいスンジョには判っている。
片手を出してハニの腕を引き起こし、そのままベンチに座らせた。
「ほら、お前の好きな駅前のトッポギだ。」
「夢じゃなかったの?」
「何が夢だ!半分も食べたのに。」
空腹にハニが一番好きな駅前のトッポギ店のおばさんの作ったトッポギを食べると、本当に美味しい。
スンジョの手から受け取ると、まだ温かくていつも以上に美味しく感じた。
「オレに食べないのか・・・・って、普通は聞くんじゃないか?」
一番大きな餅(トック)を大きな口を開けて入れようとした瞬間に、スンジョに言われて名残惜しそうに差し出した。
「スンジョ君・・・・食べる?一番大きいのだけど・・・・」
暗がりでも判るくらい優しい顔でクスッと笑った。
「散々食べておいて・・・・名残惜しそうに<食べる?>じゃないだろう・・・いらないよ。全部ハニが食べてもいいから。」
トッポギを食べて空腹を満たされたハニは、自分がどうしてここにいるのか忘れているように見えた。
「ハニはいつもオレが何の努力もなしていないと思っているのか?」
「うん・・・・IQ200の天才だもの。」
「またそれか・・・・・オレにだって出来ない事が有る。」
「スンジョ君に出来ない事があるの?」
「ああ・・・・・あるさ。人を思いやり見返りなしに愛する事。無理だと思ってもただひたすら努力して掴み取ること。」
暗くなった空のその向こうを見るように遠いスンジョの瞳。
「人には個人差があるんだ。一度聞いただけで覚えてしまうオレと、何度も何度も聞いても覚えないお前。」
「もう・・・・そんなこと言わなくても。」
「オレは必要が無いものはすぐに消すけど、お前は必要が無いものも残していくんだ。記憶力も個人差があるけど、大体オレみたいに記憶力の良いヤツは、文章や文字を言葉で覚えないで形で覚えるんだ。いくら記憶力が良くても、記憶する容量がいっぱいだと、不要なものを消して行かないと時間が掛かる。」
「判んないって顔だな・・・・・アイドルグループのメンバーの名前を覚えるのと一緒だ。顔が判れば覚えやすいだろう、それと同じようなものだ。もっと力を抜いてやればハニだって出来るさ。」
小さな子供の様にスンジョの腕に絡まって、上目づかいに甘えたような顔で見上げた。
「ゴメンね・・・・・ちょっとスンジョ君に慰めてもらいたかったの。」
「判ってるさ。褒めて甘やかすのもいいけど、最近のハニは少し甘え過ぎているみたいだったからな・・・・・さ・・・・帰るぞ。お袋が心配していたから。」
冷たい風が吹く夜の公園を、キャリーバックのガラガラという音が響いた。
明後日は、ハニが楽しみにしていた学際の日だ。
何か起こりそうな予感のするスンジョだった。
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