スンジョの戸惑い 98
「清掃員の仕事って?」
「雨の日も、天気の良い日も。寒い日も掃除をしているじゃないか。自分が汚してもいないのに、掃除をして・・・・・・・ほら見てみろよ、その場が綺麗になった時、嬉しそうにしてるだろ?」スンジョと頬が近くになるのにも気づかずに、二人で外で掃除をしている清掃員を見ていた。
「スンジョ君って・・・・いつも努力したりしていなかったよね。」
ハニに顔を向けて、目を合わせた。
「私はどんなことも努力しないと出来ないの・・・・・努力しても本当は出来ないんだけどね。でもね、出来ないと思ってもなぜか努力をしないと後で後悔する・・・・そう思うの。」
「努力して、それが叶うとどんな気分だ?」
ハニはスンジョの視線を離して、テーブルの上のジュースを一口飲んだ。
「運動会で一生懸命に走って一番になった時・・・・気分がなんだか軽くなるの。」
「パパはね・・・麺を打って、乾燥してるのを見て、良い状態だと・・・こうね胸がドキドキときめいて、乾燥した麺の臭いを嗅ぐと本当に幸せだって。麺ってね、その日の天候や麺を打つ人の体調の変化とか、本当に不思議なくらいわずかな変化でも出来が違うの。だから、毎日麺を打って出来上がるまで、上手く出来るか・・・って心配になって、上手く行った時は凄く幸せを感じるって・・・」
「オレもそんな風になれるかな?」
ポツンとスンジョは一言言って、テーブルの上のカップのコーヒーを一口含んだ。
「まだそんな気持ちになった事が無くてさ・・・・・親父の会社を継がなければいけない事は判ってる。だけど、何も苦労しないでこのまま過ぎてもいいのかな・・・・と思うんだ。オレ、親父やハニのお父さんのように、何かしたいんだ。親が引いたレールじゃなくて、自分で悩んで考えて何かをやりたいんだ。」
いつも感情を表に出す事のないスンジョが、いつも何かに苦しんでいる事はハニにも気が付いていた。
恵まれた家庭環境で育ち、勉強もスポーツも努力をしなくても直ぐに出来た。
ハニにしたら羨ましいくらいなのに、スンジョはそれでは満足が出来なかった。
「見つかるよ。スンジョ君は私と違って何でもやれるんだから。ガンバってね、応援するよ。」
ハニに話した事で少しは気は晴れたが、自分の進みたい路が何なのかまだスンジョには判らなかった。
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