スンジョの戸惑い 102
「清掃員だって?清掃員の仕事がどうだとかは言わないが、就職難のこの時世に親の会社を継げばなんの苦労もないのに、スンジョはどうして苦労をする路を選びたいのだ?」
書斎の締まっているドアの外で、ハニとウンジョが心配そうに聞き耳を立てている。
(ほんの少しでいいからドアを開けて)とウンジョに言われて、ハニはそっとドアを開けた。
部屋の中はスンジョと向かい合うようにスチャンとグミが座り、見るだけで重苦しい空気が流れ、いつも明るい笑顔で家族を見ているグミとは違う様子に、二人はゴクリと唾を呑み込んだ。
「毎日が平和で過ごせられる事には感謝しています。でも何かそれではいけないような気がしたんです。苦労してでも自分のやりたいと思えることをしたいのです。親父がおじいさんから受け継いで大きくした会社をもっと大きくするという選択肢もありますが、自分の力を試してみたいと思ったんです。」
スチャンは大きく一回二回と深呼吸をした。
胸を抑えるようにして、気持ちを落ち着かせているのか、目を閉じてスンジョの話を聞いていた。
「それが清掃員の仕事なの?」
「例えです。たまたまファミレスで食事をしている時に、歩道を見ていたら清掃員が植え込みの中の掃除が終わり、額に流れていた汗を拭き冷たい飲み物を飲んだ時の顔が輝いて見えて・・・・・・・」
スチャンは眉間に皺を入れてただ黙って目を瞑りスンジョの話しを聞いている。
「ねえ・・・スンジョ。ただ普通に大学に行ってパパの会社に一社員として入社して、そのうちに兵役もあるだろうし・・・・・その前にハニちゃんと結婚して家庭を築くのも・・・・・・・・」
ハニはグミの言った結婚という言葉に嬉しそうに笑い、声を漏らさないように両手で口を覆っていた。
「ハニが好きだけど、別に結婚をしたいわけじゃない。まだ高校生だし、この先何かあるかもしれない。だけどそうやってお袋がオレの行く道をすべて決めてしまうのにもウンザリするんだ。」
「まっ・・・・・・・・」
「そ・・・それなら・・・スンジョ・・・・留学をして・・・・・・・」
スチャンの顔から大粒の汗が流れ始めた。
その様子にスンジョも何かいつもと様子が違うと思ってはいるが、会話が出来るから大丈夫だろうと楽観視していた。
「親の援助で留学をする気はありません。自分の進路は自分で決めさせて下さい。小さい頃にお袋のおもちゃにされていた時のオレとは違います。少し放っておいていください。」
親に対していう言葉ではなかった・・・・・・・
「スン・・ジョ・・・・お前は・・・ウッウウウウウ。」
スチャンは唸るような声を出すと、額に汗を浮かべて胸を掴みその場に倒れた。
スンジョの父を呼ぶ声とグミの慌てている声に、盗み聞きをしていたハニとウンジョもドアを開けて入って来た。
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