スンジョの戸惑い 103
「親父!!」
「パパ!!!」
オレはハニに救急車を呼ぶように言って、救急車が来るまでの時間が無性に怖かった。
怖いと思ったのは生まれてから初めてかもしれない。
額に球のような汗を掻いて、土色になった顔で苦しんでいる親父を見ていると、このまま・・・・・・そんな風に思ってしまう。
オレがしっかりしないと、まだ幼いウンジョがブルブルと震えている。
そんなウンジョをハニが労わるように抱きしめてくれている。
ありがとうハニ・・・・
目の前にいる親父の手を両手で握っているお袋。
気が付かなかった。
お袋がこんなに小さかったなんて・・・・・・
黒くて綺麗な髪に数本の白い髪。
オレは今まで毎日お袋や親父の何を見ていたのだろうか。
冷めた目で両親を見ていた。
ハニがこの家に来なければ、こんな状況になっても、きっとオレは何の感情も持たなかったかもしれない。
遠くから近づく救急車のサイレンの音が聞こえて来た。
「スンジョ君・・・・救急車が・・・・」
「ああ・・・・ハニは門の所で、家が呼んだのだと判るように立っていてくれ。」
黙って頷いて外に出るハニにウンジョは親父が苦しんでいるのを見るのが怖いのか、ハニと一緒に外に付いて行った。
「急患はここですね。」
「脈はかなり弱いです。意識は・・・・有りません。倒れる前から汗をかなり掻き胸が苦しいと言っていました。」
オレは救急隊に倒れた時の親父の様子を簡単に話した。
「ありがとうございます。救急車には付き添いが一人までなので、どなたが・・・・・・」
お袋は自分が行くと救急隊員に伝えた。
今のお袋には運転が無理だ・・・・・オレは救急隊員に搬送する予定の病院を聞き、タクシーを呼んで後から病院に行くとお袋に伝えた。
「スンジョ君・・・・・私・・・どうしたら・・・・・・」
「ウンジョを頼む。病院に着いたら電話をするから・・・・・・・」
オレが不安がったりしたらいけない。
震えているハニをギュッと抱きしめた。
無理もない。
ハニは幼い頃に母親を亡くしている。
オレ以上に、死への恐怖は心にしっかりと沁みこんでいるのだから。
「ウンジョ、パパは大丈夫だから。お前は男の子だからお兄ちゃんがいない間は、ハニを守るんだぞ。」
今にも泣きそうなウンジョは、唇をギュッと噛み、大きく頷いた。
「それと、ハニがご飯を作ってくれたら、いつもみたいに文句を言わないでキチンと食べるんだぞ。」
親父の書斎を出て玄関に向かう時、キッチンに作りかけの夕食があった。
味付けくらいならハニにも出来ると思い、親父がもう一度この家に帰って来てくれることを願い、家の前で待っているタクシーに乗って親父が搬送されたパラン大病院に向かった。
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