スンジョの戸惑い 106
「本当にこの進路でいいのか?」
「はい。」
「ご両親は、なんて・・・・・」
「両親はいつもオレの意思を尊重してくれますので。それでは、授業が始まりますから。」
職員室に誰がいて、その話が伝わったのか。
スンジョだったから、その話を聞いていた生徒が驚き自分のクラスに戻って興奮状態のまま叫んだ。
「1クラスのペク・スンジョが大学に行かないで、就職するって届けたぞ。」
7クラスのハニ達の教室にも、その話が伝わって来た。
「うそ・・・・・・・・」
「えっ?ハニは知らないの?」
「うん・・・知らない。」
「あんた彼女じゃん、それに一緒に住んでるんでしょ?話しくらい・・・・・」
「へへへ・・・・オレと一緒に就職やぁ~~。」
ジュングが教室に響き渡るくらいの声で騒いでいるのも、今のハニには聞こえていなかった。
ジュングがハニの周りで、自分とスンジョが同じレベルだと騒いでも、自分が知らないうちに決めてしまった進路にショックを受けハニの心はここに非ず。
ミナとジュリが、ジュングが騒いでいるのを止めた時に授業が始まった。
スンジョ君・・・・おじさんが倒れたから・・・・だから大学に行かないの?
どうして?
大学に進学すべきなのに・・・どうして?
私はその日の授業は、殆ど聞いていなかった。
いつも真剣に聞いていても、頭に入らないから一緒の事だけど、スンジョ君の事がずっと気になった。
「今日は随分と静かだな。」
「そんな事ないよ。私だってたまには静かに歩く事が出来るよ。」
「隠すなよ、お前は顔に出るんだ。オレが進学しないという事が気になるんだろ?」
コクンと頷くとハニの頭をポンと叩いた。
学校帰りにスチャンの見舞に行くと言うスンジョにハニは付いて来ていた。
「就職をするというか、親父の手伝いをしようと思う。やりたい事も見つからないし、本当にやりたい事が見つかってからでも大学に行けるのだから。」
二人揃って病院に着き、スチャンの病室に行くためにエレベーターを待っていた。
外来の診察時間はとっくに過ぎているが、パラン大病院は沢山の見舞い客がエレベーターを待っている。
スンジョの横に、車椅子に乗ったウンジョと同じくらいの男の子が誰かに押されて、車椅子に乗ったまま倒れそうになった。
「危ない!!」
咄嗟の事に付き添っていた看護師は車椅子の体制を整えようとしたが、ほんの一瞬だけスンジョの方の手がさっきに出た。
「ありがとう、お兄ちゃん。」
「どういたしまして。」
ニッコリと少年の方を見て微笑むスンジョの顔は、ハニが今まで見た中で一番優しい顔だった。
少年を助けるために手に持っていたカバンを投げるようにした為、カバンの中に入っていた物が周囲に散らばってしまい急いでハニと拾い集めた。
その中に、一冊の専門書と思われる本があった。
ハニがそれを拾った時、スンジョはそれをハニの手から奪い取った。
「スンジョ君・・・それって・・・・医学書?」
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