スンジョの戸惑い 107
「私、ここで待っている。」
面会謝絶のスチャンの病室には、家族ではないハニは入ることが出来ない。
手に持っていたグミから頼まれた荷物を、スンジョに渡すと廊下のベンチに腰掛けた。
「直ぐに来るから。」
顔色の悪いハニを心配そうに見て、スンジョは病室に入って行った。
ハニは、病院が嫌いだ。
幼い頃に母親を病気で亡くした記憶と、独特な空気にいい思い出が無く今でもその時の事が忘れられないと言っていた。
おじさん・・・良くなるといいな。
今でも覚えているのは、亡くなるほんの少し前に機材が運び込まれて沢山のチューブを付けられて苦しんでいる母の横顔。
ハニの母もパラン大病院に入院をしていた。
終末期の患者だったからこの階ではないが、廊下から見る風景は一緒だ。
スンジョ君・・・学校はどうするんだろう。
おばさんに言うのかな・・・・・・おじさんの会社に就職をする事を。
でも、さっきスンジョ君の持っていた荷物が落ちた時に見えたのは確かに医学書だった。
おじさんが倒れたから、少しでも役に立つかもしれないと思って買ったのだろうか?
天才スンジョ君なら読んでも不思議じゃないけど・・・・・・
ハニはそう思いながら、エレベーターに乗る時に見たスンジョの優しい顔を思い出していた。
車椅子に乗った少年がバランスを崩した時に、いつもハニにでさえあんなに優しい顔をした事がなかったのに、とても優しくていい顔をしていた。
「ハニちゃん?中に入らない?」
声を掛けられて顔を上げると、グミがハニの前に来ていた。
「おばさん、私は家族じゃないから・・・・・」
グミは指を一本立てて、『内緒』と言ってウインクをした。
「荷物はあれで良かったですか?」
「ありがとう、助かったわ。急だったから、何も持たずに来ちゃって・・・・病院って冷えるのよね。ハニちゃん顔色が悪いけど・・・・・・・」
「大丈夫です。ママが入院した時を思い出しただけなんです。」
グミはハニの柔らかな髪を撫ぜて、目を見て笑顔で答えた。
「大丈夫よ、おじさんは。ちょっと疲れが溜まり過ぎただけだから。」
病室のドアをグミが開けると、ハニは不安そうに病室の中を見た。
「ハニちゃん、来てくれたんだね。ありがとう。」
意外と元気そうなスチャンにハニはホッとした。
スチャンがベッドから笑顔で迎えてくれ、思ったよりも良い状態だと思っているが、スンジョの何か考え込んでいる様子がハニは気になった。
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