スンジョの戸惑い 108
「おじさん、具合はどうですか?」
「心配かけて悪いね、ハニちゃん。検査をしないと詳しい事は判らないけど、暫く入院する事になったよ。」
「パパが、今度お見舞いに来ますって・・・言っていました。」
スチャンは親友の娘ハニを、グミと同じように自分の娘にしたいほど可愛がっている。
「気にせんでいいのに・・・・店もあるのだから。」
スチャンは知っている。
ギドンは最愛の妻を病気で亡くしたから、病院に来るのがあまり好きではない事を。
その娘ハニも、病院には嫌な思い出として幼心にも残っている。
病院は、母と過ごした最後の生活の場所だった。
「ところで、ハニちゃんは進路をどうしたのかね?」
チラッとハニはスンジョの顔を見たが、何事も無かったような顔で窓の外を見ていた。
「かなり危ない状況ではあるんですけど、パラン大に行けたらな・・・・・って。」
「大丈夫だよ。スンジョと一緒に勉強を頑張って、それぞれ春には希望をする大学に行けるよ。」
スチャンはハニと話が終わると、スンジョの顔を見た。
「大学はテハンの経済学部にするんだろうね。」
スンジョは窓の外を見たまま、感情もこもらない声でポツリと答えた。
「大学には行かない。親父の会社で仕事をする。」
スチャンとグミは顔色を変えた。
清掃員になるとは言わなかったが、まさか大学に行かないでスチャンの会社で仕事をするというとは思ってもいなかった。
いずれは会社の後を継いでもらいたいとは思っていたが、スチャンの出身大学のテハンの経済学部に進んで欲しかった。
ハニはスチャンが倒れた時の事を思い出し、スンジョの顔もスチャンとグミの顔も見れず、目をギュッと瞑って下を向いていた。
「何だって?」
「親父が倒れたから、長男のオレが会社の・・・・・・・」
「何を言っているの?スンジョ・・・・大学に行かないと・・・・」
スンジョの腕を掴んだグミをチラッと見て、その手をスンジョは掃った。
「大学に行っても、どうせオレは親父の会社を継ぐというレールから外れることが出来ないし、大学に行っても勉強だけをするなら時間の無駄だし・・・・・・」
ハニは膝の上に出した拳をグッと握っているスチャンの様子を見ていた。
スチャンは気持ちを抑えながら、出来るだけ冷静に話そうと深呼吸をして、平静を装いながらにこやかにスンジョに話しかけた。
「ありがたいが、ワシの会社は大学以上を出ていない者の採用はしないんだ。いくら親子でも他の社員と上手くやって行くためには公平にしたい。」
「判ったよ・・・・・他を考える。だけど、・・・・・・・・まっいいや・・・」
「スンジョ、今は大学に行く気はないかもしれないが、経済学を学ぶのが嫌なら、他の学部でもいいから進学する事を考えなさい。」
「帰るよ・・・ウンジョが待っているから。」
聞く耳を持たないスンジョに、スチャンもグミもただため息を吐くだけしか出来ない。
「スンジョ君・・・・待って・・・・・・」
病室を出たスンジョの後を、ハニは廊下を早足で追いかけて来た。
スンジョは急に立ち止まると、白衣を着て患者に接している医師の方を眺めていた。
患者とベンチに腰掛け、体調を尋ねたりカルテを見ている医師を見ながら寂しそうな声で呟いた。
「毎日同じ仕事をしているのに、新しい発見が出来る仕事ってなんだろう。オレはハニみたいに、色々なことに興味を持つ事もないし・・・・・・・・」
遠くを見ている目で話すスンジョに、ハニはニッコリと笑って言った。
「あるじゃない・・・・スンジョ君にピッタリのお仕事。」
「ピッタリの仕事?」
「スンジョ君は、誰よりも勉強をしているし頭も良いのだから、お医者様になればいいのに!」
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