スンジョの戸惑い 109
「医者になれって・・・・簡単に言うなよ。オレが人嫌いなのを知っているだろう。」
ハニはニコッと笑い首を横に振った。
「スンジョ君は人嫌いなんかじゃないよ。優しいし・・・・・」
「オレが優しい?」
ハニはスンジョの少し先を歩いてクルッと振り向いた。
「優しいよ。だって、おじさんのお見舞いに行く時に、車椅子の男の子を助けたもの。」
「そんなの当り前だろう。倒れて怪我でもしたら。」
ハニはスンジョのそばまで戻って来て、背の高いスンジョを見上げて目を輝かせた。
「凄く優しい顔をしていたもの。スンジョ君、私によく意地悪をするけど、でも目はすごく綺麗で優しくて素敵なんだもの。」
「私のおばあちゃんが教えてくれたの。<ハニや、人間は自分が楽しいと人を幸せにする事が出来るんだ>って。自分は楽しく人は幸せ・・・・・素敵だよね。」
結局は同じような事じゃないかとスンジョは思った。
確かに不機嫌な顔をしていれば周囲は嫌な気分になるし・・・・・
「私は、頭が悪いから何も分ける事は出来ないけど、スンジョ君は何でも出来るし、それを人に分けてあげるといいと思うの。スンジョ君がお医者様になったら、その天才的な頭脳であの車椅子の男の子の病気をペロッて治しちゃうの・・・・・・」
ハニは目尻を下げて夢を見ているような顔で、自分の思いを歌を歌うように話していた。
「医者か・・・・・・・出来るかな・・・・オレに。」
「出来るよ。スンジョ君なら・・・・」
スンジョは確かに、父が入院して病院に来る機会が増え、医療機関で働いている人たちの仕事を見て、気にはなっていた。
頭は悪くても、ハニの言葉・・・おばあさんから受け継いだ言葉が、悩んでいる自分の胸に、今にも消えそうな路を照らす蝋燭の炎を大きくしてくれた。
家に帰り部屋に閉じこもって、電源の入っていないパソコンの画面を見つめていた。
父を治療している主治医グループの、其々の仕事の役割を的確に手早くこなしている。
日々進歩する医療技術は、毎日違う病気や症状で訪れる患者の為に行われる治療で気の休まる事もない。
不安で病院に来る患者に、自分の知り得ている知識で判りやすく説明をする。
医師と言う仕事は人の進むべき路を左右する仕事だ。
この治療をしないと治るはずの病気も治らないし、小さくて見過ごしそうな病気の根源を見つけて、もう一度明るい未来を見る事が出来るようにするのも医師の仕事。
何か自分の探しているものが見つかりそうなそんな予感がした、ハニの教えてくれた言葉。
「スンジョ君の頭をみんなに分けてあげるの。」
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