スンジョの戸惑い 112
静かに静かにダイニングに行くと、鼻唄を歌いながらハニは朝食の準備をしていた。
時々外す音が可笑しくて、我慢しきれずにスンジョは吹いてしまった。
「ビ・・ビックリした!・・スンジョ君いつ来たの?」
「今だよ。今日はオレが作ろうか?」
ハニは両手を広げてスンジョがキッチンに入らないようにして首を横に振った。
「大丈夫よ。今日は焦がさないから、私に任せて!」
と言いながらも、フライパンから煙がモクモクと出ている。
「ハニ・・・・何か燃やしているのか?」
「燃やす??・・・・!!!」
フライパンを火にかけたままだという事を忘れていたのか、コンロの方に駆け寄ると急いで火を消してフライパンを持ち上げようとした。
「キャー・・・・熱い!!」
ハニの悲鳴と同時にフライパンの蓋が、大きな音を立てて床に落ちた。
「大丈夫か?火傷をしたのか?」
駆け寄りハニの手を取ると、手の平は赤くなっている。
スンジョはそのままハニをシンクまで連れて行き、ハニの洋服の袖を捲り上げると勢いよく水を掛けた。
「痛い・・・・痛いよ・・・・スンジョ君・・・・」
「煙が出たフライパンの蓋が熱いのは判っているだろう!!フライパンの柄にしたって鍋掴みで掴まないと火傷をするじゃないか。」
怒鳴るつもりはなかったが、スンジョは自分がそばにいたのに、少しからかっている間に火傷をさせてしまった事を後悔していた。
幸いハニの火傷は、蓋に触れた部分だけ赤くなっただけで大事にはならなかった。
「この薬を塗っておけば大丈夫だ。今日一日、ズキズキとするが跡にはならないけど、今日の朝食はオレが作るよ。」
「でも・・・夕食は・・・・・」
今にも泣きそうなハニを見ていると、夢の中で見たあの小さな女の子を思い出し、急にハニを抱きしめたくなった。
「今日は、おじさんの店で食べよう。親父とお袋からの伝言もあるし・・・・・」
胸の中に納まっているハニは、どう動いていいのか判らず身体を固くしていた。
いつまでもこうしている訳にも行かない。
ウンジョに見られてはいけないし、その温もりに誘われる様にハニを放したくなくなってしまうから。
目玉焼きを作っていると、ハニが見ているのが背中に伝わって来る。
「オレ・・・・・・昨日ハニが言った話を一晩考えたんだ。」
「私が言った話?」
「まだ・・・誰にも言うなよ。親父の体調が良くなってから話すから・・・・・・・・」
「うん、言わない。」
ハニが目を輝かせてオレを見ているのだろう。
ハニのキラキラと綺麗な瞳にオレは弱い・・・・・
あの瞳を見たら話せないかもしれない。
「オレ・・・・・医学部に行こうと思う。」
そう言って振り向くと、ハニの目がいつもよりも綺麗に輝いていた。
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