スンジョの戸惑い 113
「お医者様になるの?」
「ああ・・・・・出来るかどうか判らないけど、初めて自分からやってみたい事を見つける事が出来た。」
「良かったね・・良かったね。」
ハニはスンジョにそう言うと、両手で顔を覆って泣き出した。
「どうしてお前が、医者になると聞いただけで泣くんだよ。」
「スンジョ君が・・・・・なりたい事を見つけてくれたから・・・・嬉しくて。」
自分の事ではなくて人の事でも嬉しいと言って泣いてくれるハニがスンジョには嬉しかった。
「ハニがそばにいてくれたおかげで、冷めた目で見ていた世の中をもう一度見直してみよう。そのために医学部に行ってまだ燻っている炎を、大きな炎に替えてみるのもいいのじゃないかと思えた。」
学校に行く準備もあり、その後はいつものようにウンジョの文句とハニの抵抗するようなじゃれ合いにも、新聞を読んでいるスンジョは素知らぬ顔だ。
さて、親父たちにはどのタイミングで言い出したらいいのか、とスンジョはその時考えていた。
ジオン先生はスンジョが進学をすることに決めたと知り、安堵した顔で『良かった良かった』と喜んでいた。
隠すつもりは無いが、両親に相談もしないで決めえた事を考えると、ハニや学校の先生たちの様に素直に喜ぶ事は出来なかった。
「ところで大学はテハン大学の医学部にするんだよね。」
嬉しい事ではあるがスンジョの進学をするという変更は突然の事で、生徒の進路希望の書類をスンジョの前に出して、ジオン先生は進路希望変更の準備を急いでしていた。
「どこの大学かは、少し待ってください。まだ両親に話をしていないから。」
「そうか・・・君ならどこの大学も合格間違い無しだからね。」
本当はどこの大学の医学部に行くのかは、もう自分の中では決まっていた。
進路で悩んでいた時、バルコニーで風呂から上がって涼んでいた時だった。
バスルームから出て自分の部屋に入ろうとしていたハニが、オレの姿に気が付いて近づいて来た。
「私も涼んでいい?」
「どうぞ・・・・・」
ハニの洗い髪から漂うシャンプーの香りに、珍しく胸がときめいた。
オレのそんな変化をハニに気づかれない様に、小さく深呼吸をしたっけ。
好きだな・・・ハニの使っているシャンプーの香り。
ハニが使っているから好きなのもある。
「スンジョ君は、やっぱりおじさんと同じテハン大に行くんだよね。」
「さぁ・・・・・・・まだ決めていない。」
あの時は何だろう・・・・・ハニへ向かう気持ちが自分でもどうしていいか判らないくらいに、自分の思いをぶつけたくなっていた 。
「スンジョ君は天才だから、どこの大学でも行けるから・・・・・・留学するのも良いし・・・・・」
ハニの独り言のような話を、ただ聞いているのも結構好きだ。
「でも・・・・・スンジョ君と一緒の大学なんて私には無理だけど・・・スンジョ君が私と一緒の大学なら、学校生活の四年間はハラハラドキドキの刺激的な生活を毎日保障できるんだけどな・・・・・・」
お前がオレと同じ大学に来るのは無理かもしれないけど、オレがお前の行きたい大学に行くのは、容易い(たやすい)・・・・って知ってるか?
ハニにならオレの気持ちも言えるような気がし始めたのはあの頃かな?
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