スンジョの戸惑い 149
お袋とオレのどっちの言う事を聞くんだ。
そんな事をハニに言う方が間違っている。
実の子供よりもかわいがってくれているお袋は、ハニにとっては母親だし、娘がほしいお袋にしたら実の娘だ。
ハニはオレの事を好きだから、こうしろと言えば聞くだろう。
それは自分の意思じゃなくて、オレの言うとおりに動いて嫌われないようにしようという事だ。
スンジョが口を利かないから、ハニは離れのこの部屋でポツンとしている。
明らかにスンジョの身体から、近寄りがたい空気が漂っているから話しかける事も出来ない。
居ずらくてグミたちの方に行きたいが、行けば行ったでグミから何か聞かれて、それがまたスンジョの耳に入ると、また怒る事はハニでも判る。
スンジョと一緒に居るよりはと、部屋から出て星屑湯の湯船の方に行ってみる事にした。
湯船の中を見ると、今まで気が付かなかったが底にキラキラと光るものが見える。
「なんだろう・・・・・・・なんだか星みたいに光って・・・・・。」
部屋に近い方は入っても膝くらいしかないが、奥に行くほど深くなっている。
底に埋め込まれているはキラキラと光る鉱石に見とれて、奥に奥にと誘われる様にハニは進んでいた。
奥は木が茂り、見上げると木々の隙間からチラチラと太陽が見え隠れしている。
「何センチあるのかな?」
縁を滑らないように歩いていると、どうしても屈んで行かないと先に進めない程に枝が覆いかぶさっていた。
縁のぎりぎりを歩いていると、温泉の成分で縁石がヌルヌルしている。
「気をつけないと・・・・・・・」
スンジョは怒って本を読んでいるうちにいつしか夢中になり、ハニがそばにいない事に気が付いた。
「アイツ・・・・どこに行ったんだ?」
湯の方に行ったのは知っていたが、窓越しに見ても姿が見えない。
泳げないハニが一人で足が着くかどうか判らない奥に行く事はないと思っても、胸騒ぎがする。
部屋を出て湯船に近づいた時、奥の方で<ザブ~ン>と、水の中に何かが落ちるような音がした。
かすかに聞こえる、もがくような水の音とハニの声。
「落ちたのか?」
スンジョは急いで湯の中に入り、奥へ奥へと急いだ。
「た・・・助けて・・・・・・スンジョ君・・・・助けて・・・・・」
足を付けてみようと思ってそっと足を伸ばすと、何とか足がつくが深すぎて顔が全部出ない。
背伸びをしては息をするが、怖くてそれも何度も出来ない。
不安がどんどん大きくなって、それでも一番奥にあるベンチまで行こうと、ハニは縁の方まで歩いた。
手で湯を掻きながらなんとか無事に辿り着いて肘をかけ上がろうとした時、ツルッと滑ってまた湯の方に身体が傾いた。
もうダメ・・・・・・
諦めてそのまま身を任せると、何かに当たった。
「危ない!」
ギュッと閉じた目を開けて見ると、心配そうにスンジョが自分を見ていた。
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