スンジョの戸惑い 160
スンジョはドアの前で佇んでいた。
いつも見慣れているはずの重厚なこのドアが、いつもよりも重厚で遠くに感じた。
_______コンコン
「親父、入ってもいいか?」
「スンジョか、いいよ入っても。」
いつもと変わらない父の声に、スンジョの緊張は少し和らいだ。
スチャンはスンジョが部屋に入ると、回転椅子をクルッと廻してスンジョの方を見た。
「そこに座りなさい。」
父の書斎に入るのは久しぶりだ。
高校生になるまでは、興味深い本が書棚に並んでいるからと、よくスチャンが書斎にいる時に来ていた。
スチャンがソファーテーブルの方に移って来ると、机の上に置かれている沢山の薬袋が一瞬だけ見えた。
「どこか悪いの?最近時々しんどそうだけど、具合が悪いのか?」
「疲れが出ただけだよ。」
親父はいつもそうだ。
仕事で大変だったりしてもそんなそぶりを見せないで、家族に余計な心配をさせないようにしている。
「忙しいの?」
「まぁな・・・・・・ところで大学の方はどうだ?」
お袋から親父の薬の袋を見たと聞いてから、ひと月以上経っていた。
その間、帰宅が毎晩深夜を過ぎていて、朝は朝でオレ達の起きる前に出社していた。
今日は、残業続きだったから早く帰って来たとお袋から聞いて、ちょうど親父と話をしたいと思っていた。
「楽しいよ。知らない事がこんなにあったのかと思うと、もっともっと追究をしたくなって来た。」
「そうか・・・・・・良かったよ。自分の目指す道を、どんなに困難でも目標をしっかり持って諦めずに登り詰めなさい。」
その言葉で何かを思い出したスンジョは、クスッと笑った。
「その言葉・・・・ハニがよく言っていた。」
「そうか、いい子だろ?ハニちゃんは。」
「あぁ・・・・・オレにとっても、この家にとってもだろ?」
「そうだな・・・ママが毎日楽しそうだ。」
楽しく話をしているのに、時々胸に手を当てる父の様子をスンジョは心配そうに見ていた。
「親父・・・・・狭心症なんだろ?」
スンジョの言葉にスチャンは、驚いたように顔を上げた。
「この間、お袋が薬袋を持って来た。」
「そうか・・・最近忙しかったから、少し休養を取れと医者から言われたよ。」
きっと親父はそれでも休まないで仕事をするんだろうな。
「オレが手伝おうか?」
スチャンはスンジョの言葉を意外そうな顔で見ていた。
「会社の事は何も知らないけど、教えてくれれば多少は役に立つと思う。」
「手伝ってくれるのか?スンジョが手伝ってくれれば助かるよ。授業の空いている時に会社の方に来てくれればいい。」
このまま医学部で勉強をしてもいいのだろうか。
きっと親父はオレに後を継いでほしいとずっと思っていたのじゃないだろうか。
授業の合間に仕事を手伝うと言っただけで、こんなに嬉しそうな顔を見ていると、自分の意志を貫き通していいのか気になる。
親父が具合が悪いのを隠して、家族を温かく見守るためにきっと無理をして来たのだろう。
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