スンジョの戸惑い 163
スンジョがハニを誘って社食に行こうとすると、開発室の女子社員が壁に這う蔦の様にゾロゾロと付いて来た。
ハニはスンジョと手を繋いで開発室を出たが、年上の適齢期を過ぎたお姉様方には勝てず、知らない間に繋いでいた手が外れてしまった。
「スンジョさん、彼女とかはいるの?」
チラッとハニの方を向くと、目を輝かせて自分の顔を指していた。
「彼女は・・・・・・・」
「年上の人はどうかしら?」
「ええ・・・まぁ・・・・・・・」
ハニにしたら高校の時の様に、みんなの前で「付き合っている」「同じ家に住んでいる」と言ってくれるのだと思っていた。
社食に行けば社長の息子が今日からアルバイトとして出社していると知っているのか、女子社員どころか出世を願っている男性社員が代わる代わるスンジョに話しかけて来た。
その下心アルアルの人の輪に入れないハニは、社食の一番奥の角に座り、ただ黙ってその集団を眺めていた。
「つまんない・・・・・・・私と付き合っているって言ってくれると思ったのに・・・・・・・」
ハニはフォークで写植の日替わりランチのおかずを勢いよく突き刺して、大きな口を開けて自棄食いの様に食べた。
けど、いつの間にか目を開けると呆れたような顔をしたスンジョが立っていた。
「デカい口。」
「スンジョ君・・・・・・一人で食べるから気にしないで。」
「拗ねてるのか?」
「拗ねてなんか・・・・・・・・私は彼女じゃないんだから・・・・・・・」
「へぇー彼女じゃなくていいんだ。」
ビックリしてハニはスンジョの顔を見た。
「ダメ・・・・・・ダメダメ・・・・・でもスンジョ君、さっき彼女いますかって聞かれた時、何も言ってくれなかったじゃない。」
「言おうとしても、あのパワーじゃ言えないだろう。でももう大丈夫だ、彼女はいないけどずっと一緒に住んでいる大切な人がいるって。」
それを言ったからなのか、先輩女子社員たちの痛いほどの視線が自分に刺さっている気がした。
「お前さ・・・・いい加減に自分に自信を持てよ。」
「だって・・・・・」
「今お前の前にいるペク・スンジョがオ・ハニを選んだのだから、もっと自信を持てよ。お前は自分を過小評価するけど、お前の笑顔にオレがどれだけ救われているのか知っているのか?」
首をブンブンと振るハニの顔が幼い子供の様で、ここが社食で誰もいなかったら可愛すぎて抱きしめているところだった。
「オレはお前がいれば何でも出来るように思えるんだ。」
「でも、アルバイトをするのをダメだって言っていたじゃない。」
「あ~ぁ、お前がドジをしてオレが助ければそれでもいいけど、お前がほかの男に笑いかけるのが嫌なんだよ。」
「えっ?」
ハニがフォークに刺して持ったままのウインナーを奪う様に取って、スンジョはそれをパクッと食べた。
「もう一回言って・・・・・」
ハニはいつでもそうだ。
オレが少しでもデレとすると二回・三回と聞き返そうとする。
「こんな虫唾(むしず)が走りそうな事は二度と言えるか、このバ~カ。」
スンジョが自分らしくない事を言うのが、どれだけ勇気を出して言っているのか、ハニ自身はちゃんと判っている。
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