スンジョの戸惑い 165
ハニと一緒に学校の講義が終わって会社に行くと、ロビーを開発室やその他の部署の何人かが、顔色を変えて慌ただしく動いていた。
「何があったんだろうね、スンジョ君。」
「あぁ・・・・・」
ただならぬ感じで動いている人に、緊急事態だと直感した。
ロビーよりも開発室の部屋は更に大騒ぎになっている。
「どうしたんですか?」
ひとりの社員に聞くが、パニック状態だ。
「スンジョ、来た早々で悪いが緊急事態が起こった。今から出かけるから、社長室で待機していてくれ。」
何の説明もなく、スチャンは秘書と話しながら厳しい表情で出て行った。
ハニと二人、社長室から開発室の社員を見る事しかできない二人。
「何があったんだろう。」
ハニが心配そうにそう言うが、オレ自身もそんな言葉しか思い浮かばない。
二人にお茶を運んで来た女子社員にスンジョは、何があって会社の中が騒がしいのか聞いてみた。
「経理担当の部長が無断で社長印を押して、新発売のゲームの情報を持ち逃げしたのです。」
社員ならそれだけ聞けば誰なのか判るが、スンジョには人事までまだ分かっていなかったが、人事の名簿をなんとなく見ていた事があったから顔を思い出した。
その人物だけは数年に一度更新される書類に映る写真での顔は、やる気のなさそうな定年間際の表情をしていて直ぐにあの人物だと気が付いた。
女子社員に警察には届けたのか聞くと、社長がそれを拒み内密に探したいと言ったと答えた。
スチャンは家でもその社員の事を、「永年真面目に仕事をしてきた信用が出来る社員だ」といつも信頼しているような事を言っていた。
今のようにゲーム主流になる前は、経理部門の中で一番活気のある人物だったはずだ、とスンジョは聞いていた。
何か手がかりはないかと思うが、会社の状況もまだ把握できていない自分が勝手に動く事も出来ない。
そして、体調に不安を抱えている父スチャンの身体が心配になった。
「おばさんに連絡をした方がいい?」
「しない方がいい。親父の体調が悪い事を気にしているし、会社の事は何も知らないから。」
お袋がこの事を知ったら、今まで自由にさせてもらっていた事を後悔するはずだ。
それは親父も嫌だろうし、望んでいないのだから。
前に親父が言っていた。
「ママのどこが好きなのかと聞かれると、元気で明るい笑顔が好きなんだ。だから、ハチャメチャな事をしても怒らないでやってくれ。若くしてパパみたいに外見も良くない年の離れた男の所に嫁いで来てくれて、スンジョやウンジョの様にいい息子を産んでくれたんだ。家の事だって何一つ手抜きをした事がない人だ。心配を掛けたくないし、会社の事もたとえ大変な事が起きても知らせたくない。」
そんな事を考えた時に、携帯が鳴った。
「親父からだ。」
電話に出ると、それはスチャンの声ではなく取り乱した感じの秘書の声だった。
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