スンジョの戸惑い 166
「あの・・・・・・父に何かあったのですか?」
スンジョの携帯にスチャンから掛って来たと思った電話が、スチャンではなかった事はハニにもわかった。
いつも冷静で、顔の表情も変わらないスンジョの顔から血の気が引いていた。
「スンジョ君・・・・・・」
「親父が倒れた。」
「倒れた?」
胸がドキドキしていた。
体調を心配して、親父の会社でバイトを始めたばかり。
「持ち逃げした経理担当の部長の家で・・・・・・倒れたんだ。」
「そ・・・・・その・・・・部長は・・・・・」
「家にはいなかったし、会社の金とかを持ち逃げした事は家族も知らなかったらしい。まさか永年勤めた会社に恩を仇で返して、と言って奥さんは泣いていたらしい。」
会社を出る時は親父が倒れるなんて思わなかったし、倒れるほど心臓がそんなに悪いなんて知らなかった。
「どうしたらいい?」
不安そうに聞いてくるハニの目は潤んでいた。
そうだろう、まだ4歳の幼い頃に母親を亡くしているのだから、親父もハニを自分の娘のように可愛がっていたのだから、オレの親父とは言ってもハニ自身そんな風に考える人間ではない。
「お袋には連絡をするから、家に帰ってお袋の傍にいて、家で待っていてくれ。」
「パパにも言った方がいいかな?」
「いや、おじさんが店を休んだら、あとから親父が気にするだろう。夕方の客が少ない時間帯にオレから連絡をする。ハニは、ウンジョを頼む。」
まだ小学生のウンジョ。
たとえ何も出来ないハニであっても、いないよりいた方がいい。
誰もいない広い家で、父親が倒れた事を知ったら小学生のウンジョが一人では心細いだろう。
ハニが開発室から出てすぐにスンジョはグミに電話をした。
<はぁ~い、なぁにお兄ちゃん。>
妙に明るいグミの声に、今から言おうとしている事を考えるとスンジョの心は苦しかった。
「親父が・・・・・・・親父が倒れた。」
<こんな時間に私をからかっているの?30分ほど前にパパが、今日は遅くなるから夕食は自分の分は作らなくてもいいって、電話が入ったのよ。>
30分前なら倒れる少し前くらいだろうか。
きっと遅くなっても起きて待っているお袋の為に、長引きそうと思って電話をしたのだろう。
「パラン大病院の緊急外来に運ばれたんだ。ハニが今から家に帰るから、オレの書いたメモの物を用意して、車じゃなくてタクシーで病院まで来てくれ。」
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