スンジョの戸惑い 173
「おはよう。」
「おはよう。」
昨晩の悩んだ様子のスンジョとは違って何か決心をしたのか、吹っ切れたような清々しい顔をしていた。
「今から朝食を作るね。」
「ああ・・・・、新聞を取ってくる。」
まるで、新婚夫婦のような朝の風景。
ハニはきっと、こんな生活をオレと過ごしたいと思っているのだろう。
リビングのソファーからダイニングの方を向いて座り、ハニがアタフタとしながら朝食を作っている姿を見ているのが、こんなに幸せで温かく感じる事が続いてくれるといいと思っていた。
卵を割って殻が入った。
ベーコンを焼き過ぎた。
トーストが真っ黒になった、と大騒ぎ。
それでも、自分が家族の食事を作っているという責任感溢れるハニの表情が楽しかった。
「ハニが作ったご飯なの?」
「ウンジョ君、おはよう。見かけは悪いけど、味は保障するわ。」
「保障って・・・・・何時ものベーカリーで買ったパンに、普通のスクランブルエッグ擬きの煎り卵・・・・・と炭・・・・・・・・」
「炭じゃないわ、ベーコンよ!そんな意地悪を言うと、彼女が出来ないわよ!」
「フンッ!余計な御世話だ。」
ウンジョとハニのこんな会話が聞けると、親父が倒れた事で幼いウンジョを心配させたくないと思う。
幼い頃に母を亡くしたハニだから、きっとウンジョの気持ちも分かってくれるだろう。
大丈夫、親父は亡くなったりしないから。
「ごちそう様、病院に寄って親父の様子を見てから会社に行くから。」
「お兄ちゃん・・・・学校は?」
さっきまでとは違って、思い出したかのように暗い顔でウンジョが聞いて来た。
「心配しなくていいから。」
スンジョはウンジョにそう言って家を出て行った。
「お兄ちゃん、みんな自分一人でパパの代わりをするのかなぁ・・・・・僕だって、パパの子供だから何か手伝いたいのに。」
ハニもウンジョと同じ気持ちだった。
責任感の強いスンジョだから、きっと誰にも言わないで自分で何もかも引き受けるつもりなのだろう。
「さぁ、ウンジョ君も学校に行かないと遅刻するよ。」
食べ終わった食器を片づけ終ると、ハニも学校に行くために急いで家を出て行った。
_______コンコン・・・・・
「はい、どうぞ。」
声を潜めてノックに応える母の声に、心配そうにスンジョは病室に入った。
「親父の具合は?」
「落ち着いているわ。夜中に一度起きて、心配かけたな・・・・・・って・・・・・ママは会社の事も今の状況も何もわからなくて・・・・・・・」
初めて訪れた家族の一大事。
心配かけまいとしていた父の気持ちを思うと、母が悲しむ事はいけない。
「さっき、会社から電話があったんだ。経理部長・・・・見つかったって。」
「元気にしていらした?」
「あぁ、親父が倒れた事を聞いて、大変な事をして申し訳ないって言って泣いていたらしい。今日会社に来てくれるから、処遇について話し合う事なった。」
「あまり厳しい事にはしないでね。長い間会社の為に、仕事をしてくれたのだから。」
「判っている。本人の考えも聞いて、秘書や各部署の責任者たちと決めるから。」
スチャンも厳しい処罰は好まない事はスンジョにも判っている。
子供の頃から面識のある経理部長だから、許したい気持ちもあるが、彼の為に仕事が止まっていた事を考えると、簡単には済まされない。
社長であるスチャンの代理として、大学生のスンジョには難しい判断をしないといけなくなるかもしれなかった。
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