スンジョの戸惑い 179
「スンジョく~ん、コーヒー持って来たよ。」
「うん・・・・」
書斎のドアを開けて、片手で持ったトレイにコーヒーを乗せて中に入って来た。
ハニは不器用なくせに、パパのお店を手伝っていたから得意だと言っていた。
「ここに置くね。」
白いハニの手がスンジョの目の前に現れると、その手をぐいっとひぱった。
ハニはそのままスンジョの胸に抱かれるように、スッポリと収まった。
「スンジョ君・・・・・どうしたの?」
ハニの腫れぼったい目が驚いたように見開いた。
このハニの綺麗な目はいつもオレを写している。
嬉しい時も悲しい時も、この瞳はキラキラと輝いてオレを見ている。
ハニを離したくなくて、スンジョはギュッと力を強くして抱きしめた。
「スンジョ君・・・・苦し・・・・・・ダメだよ、ここは書斎だよ・・・・・・」
「判っている・・・・・・」
狭い書斎にハニと二人っきりでこんな事をしてはいけない。
ウンジョはリビングでテレビを見ているから、何時までもハニが戻って来ないと、独りでいるのが退屈だと言ってここに来るかもしれない。
それでもオレはハニとこうしていたい。
「変な事したら・・・・だ・・め・・・・・」
「変な事・・・・・しちゃおうか?」
声にならない声がハニから聞こえた。
それを無視するように、スンジョはハニのブラウスのボタンに手を掛けた。
「いや・・・・・いや・・・・・・・スンジョ君、嫌・・・・・・」
ウンジョがいるからハニも声を潜めて言うが、スンジョには聞こえない。
スンジョの力よりもハニの逃れようとする力が強かった。
「嫌だ・・・・・・・結婚するまでは・・・・嫌・・・・・・」
その言葉と一緒にハニの目から大粒の涙が流れて、スンジョの手の甲に落ちた。
結婚するまでは嫌
そうハニが言わなければ、理性は完全に壊れていた。
「ごめん・・・・・・」
涙を流しているハニの顔が見られなかった。
結婚出来ないのだから、ハニに触れるのはこれが最後だ。
お見合い相に手会ったら相手に断られない限り、そのまま結婚しなくてはいけない。
普通に好きな人と結婚して、普通に子供の親になって、一緒にずっとハニといたかった。
親父が倒れなければ、会社が資金繰りで大変じゃなかったら。
そんな子供じみた夢を実現出来たかもしれない。
「私、向こうに行くね。」
ハニがオレを見ていない事は気が付いた。
こんなオレをハニは好きでいてくれるはずない。ゴメン・・・・・ハニ。
愛情もなく金銭絡みでのお見合いをする、ずるくて冷たいオレにはハニはもったいない。
ハニが芽吹かせてくれたこの感情を、また折って生きて行く事に耐えられるだろうか。
今まで、自分の恵まれた家庭環境に何も気にしなくて生きてこられたのに、今はその恵まれた家庭環境が、鎖のように重く感じる。
ハニや、ハニの仲のいいジュングの様に、ただ自分の感情に素直になれたらもっと自由に自分の人生を過ごせたのかもしれない。
スンジョは指定された店の前に立ち、大きく深呼吸をし、ある意味覚悟を決めたように店内に入った。
「ご予約ですか?」
「ユン会長と・・・・・・」
ホールスタッフがスンジョを店の奥の静まった部屋に案内をした。
「こちらです・・・・・・お連れ様がお越しになりました。」
引き戸を開けると正面にユン会長が座り、その横にその孫娘でもあるスンジョの見合い相手のユン・ヘラが座っていた。
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