スンジョの戸惑い 180
「アンニョン!」
自信たっぷりの自分を鏡に映したようなユン・ヘラ。
知的で話しやすい彼女だけど、それだけの事。
ハニ以外は考えられないから、彼女が自分のお見合いの相手だと思うと、急に今日ここに来た事に後悔をした。
「まぁ、座りなさい。」
ユン会長に勧められて席に着くと、ヘラがまるで自分がオレの何もかもを知っているように会長とメニューを決めていた。
オレと言えば、まるでハニと同じように何も決められない。
「スンジョ君は、ヘラとどこで知り合ったんだ?」
「あ・・・・・」
「大学も同じ理工学部でテニス部でも一緒なの。高校の時のテニスの大会と、模試の会場よ。テニスの大会の時にお互い優勝した時のインタビューで知り合ったのが始まりよ。」
オレに話す余裕さえ与えず、ヘラはオレとの馴れ初めや、その後に模試の会場で話した事を得意げに言っていた。
嫌だ・・・・・彼女との未来は考えたくない。
「会長・・・・・・」
「うん?」
「すみません、折角の席で・・・・・彼女との見合いが融資の条件ですか?」
オレの率直な言葉に会長の目が見開かれて、厳しい顔になった。
「君もはっきりものを言うな、気に入ったよ。最近の若い者は、自分の意見を言いたくても言えないやつが多いから・・・・・・・、まぁ・・・・そう取るならとってもいい。間違ってはいないのだから。」
ハニを抱きしめた時の昨日の感触が忘れられない。
「実は・・・・・・・・」
「好きな子がいるのか?」
「おじい様・・・・」
「会長・・・・ご存じで。」
ユン会長はお茶をグイッと飲んで、ニヤッと笑った。
「気が付いていた。この間行った時にいた元気な女の子だろ。君の姿をいつも追っていて、君もあの子を何気に見ていた。」
「はい・・・そうです。彼女と付き合っています。」
そんなスンジョの告白にも、会長は動じない。
それなのに、会長の考えにスンジョは驚いた。
「いいじゃないか好きな子がいたって、人を好きになれないやつには大切な孫娘の結婚相手には考えれん。ヘラと結婚しても何も問題ないだろ?」
会長の物の考えが、スンジョは全く分からない。
「おじい様・・・・どういう事なのよ。訳が分からないこと言わないでよ。」
「その子との付き合いが続いても、ワシは構わん。優秀な遺伝子を残してくれればな。」
吐き気がした。
時代錯誤的な会長の自分勝手な言葉に。
要は、ユン・ヘラと結婚に至っても、ハニを愛人にでもしろという事なのか?
ヘラもその事になんとも思わないのか、そりゃそれでもいいわ・・・なんて言って。
遊べない男よりも、モテる男の方がいい・・・・・
無理だ、オレには。
オレはそんな事は出来ないし、一人の女しか愛せない。
ずっとハニみたいに温かい女じゃないと、オレは自分らしく出来ない。
適当にユン会長とユン・ヘラと話をしていても、この場から逃げ去りたい気分になる。
「じゃあ、ワシは人と会わないといけないから、若い者同士ゆっくりするといい。」
会長がそう挨拶をして退席した。
「スンジョ・・・どうしたの?」
「君の考えとオレの考えは同じか?」
「そうでしょ?いつも考えが同じで、気が合う間柄でしょ?」
違う、オレと君は考えが全く違う。
「ごめん・・・・体調が悪いから、帰らせてもらう。」
ヘラがオレの背中越しに、大丈夫?うちの車で送らせようか。と言っているのが聞こえた。
ハニに会いたくて、オレは振り返らず店を出た。
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