スンジョの戸惑い 182
「いらっしゃい・・すいませんね、まだ開店前なんですよ。」
「パパ、私だよ。」
開店前の仕込み中だったギドンは、驚いて顔を上げた。
「おお、ハニやどうした?スンジョ君も一緒に。」
厨房の奥で、ジュングが『ハニが来たのか?』と従業員に聞いていた。
「おじさん・・・・ちょっと話がしたいのですが・・・」
一緒に暮らしていてもあまり話した事のないスンジョが、珍しく話をしたいと言っている事に、多分誰にも聞かれたくない話しなのだと感じた。
「上の個室に行こうか・・・・・ちょっと個室で話をしてくるから、お茶を持って来てくれるか?」
ギドンの後に付いて、ハニと並んでスンジョは2階に上がった。
2階の個室は以前はハニが使っていた部屋で、壁にその時に好きだったアイドルのポスターが貼られたままだった。
「あの・・・・・実は・・・・」
「お茶が来るまで待ってなさい。聞かれたらまずい話だろ?特にジュングには。」
「はぁ・・・・まぁ・・・・・・」
鈍感なハニでも、スンジョが緊張しているのが判った。
その様子からスンジョが父に言いたい事を想像していた。
予想していた通り。
お茶はジュングが運んで来て、テーブルの上にお茶を置くと、いつもと違って緊張しているスンジョが気になって部屋から出て行こうとしない。
「ジュング、仕込みをさぼらないで、早くみんなの所に行って来い!」
「へーい。」
ギドンに怒鳴られてかっこ付かないジュングは、ハニに小さく手を振って降りて行った。
「さぁ・・・・言ってごらん。もう誰も来ないと思うから。」
横に座ったハニの手をギュッと握って背筋を伸ばした。
「おじさん・・・・・ハニと結婚させてください。」
「へっ?」
スンジョが父に会いたいと言ったのは、自分の料理があまりにも酷いから修行させてほしいと言うためだと思っていた。
「結婚?どうしてそんなに急ぐんだ?もしかして・・・・・・妊娠した・・・とか?」
「ヤダ・・・・パパったら。」
「おじさん、そうじゃないです。」
「先日、親父の会社の融資先の孫娘さんと、お見合いをしたんです。いわゆる世間で言われる政略結婚ですが・・・・」
ハニの手から伝わる動揺に、スンジョは安心させる様にギュッと握った。
ギドンは何も言わずに、ただ黙ってスンジョの次の話を待っていた。
「見合いの相手は、ハニもよく知っていて、オレの数少ない話の出来る人物でした。その相手の女性の祖父と話をしていて、ハニが好きなのに融資の為に見合いをする事に疑問を持ったんです。親父の会社は資金面で凄く大変な時期ですが、お金に心を売ることは親父は喜ばないと。」
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