ハニの戸惑い 22
家の近くの小さな教会を出て、隠して停めておいた車に乗り込んだ。
隠しておいた・・・・
隠す必要などないが、家が近い事とどこでグミに見つかって『何をしていたのか』と、問い詰められる事は間違いがない。
何しろ、この辺りはグミの立ち寄る場所がいくつかあるし、教会で募金活動の一環として販売しているクッキーは家族が好きな焼き菓子だから。
数日前にハニは、グミが買って来ていた事を言っていたから、スンジョが候補の一つだからと立ち寄った。
「おばさん、このクッキーを作っている教会にいつか連れて行ってください。」
あの時は、雑誌を見ながら家の近くの住所が表記されていたから、グミならよく知っている場所かもしれないと思ってそう言ったのだった。
「いいわよ、いつでも連れて行ってもいいけど、よく行くから買って来てあげるわ。」
そう言う話を聞いてからすぐにクッキーを買って来た。
あんな風に言わなければ、あのクッキーを食べる事も出来なかった。
「私、初めて来たの。おばさんがよくこの教会のクッキーを買って来てくれるから、いつか行ってみたいと思っていたの。一つ買ってもいい?」
販促品が並んでいる場所で、並んでいるクッキーやジャムを手に取りながら、スンジョの方を見て聞いた。
「だめだ・・・・・お袋にばれるから。」
その会話を聞いていた神父が、サッとどこかに行ったと思うと、何かを持って来た。
「お嬢様、おひとつどうぞ。」
「えっ?」
差し出された包みをそっと開いて中を覗いた。
「結婚のお祝いというほどの物ではありませんが、昼ごろに焼き上がった物で、今日は木の実を入れてあります。」
「でも・・・・・・」
「大丈夫ですよ。私達、神父はいらしてくれた方の秘密は守りますから。」
スンジョの顔を見上げると、いいぞと頷いていた。
「ありがとうございます。」
「それでは当日お待ちしております・・・・・・・。お二人の未来が永遠でありますように・・・・アーメン。」
「・・・・ア・・・・メン」
いくつか頬張っていると、自宅とは違う方に向かって走っている事にハニは気が付いた。
「どこに行くの?家の方と間違えて走っているよ。」
「お前とは違うよ。まだ、行く所があるから。」
優しいかと思えは、意地悪な事を言って、そのたびにハニはプゥッと膨れる、がそれも二人のいつものやり取りの一つ。
静かな店の前で車を停めると、そこで降りるようにスンジョに促されて、ハニは車から降りた。
「ウエディングドレス・・・・・・・・」
ショーウインドーにディスプレイされているドレスを見て、ハニはキョトンとしてスンジョの顔を見た。
「この店で揃える。」
「揃えるって・・・・・・何を?」
「お前の欲しい物・・・・・・だけど、あまり高い物を選ぶなよ。」
結婚式を挙げないと言っていたスンジョが、自分で稼いだバイト代で、ハニにウエディングドレスを買ってくれる。
あの日はショックだったから、今のハニは人生で一番幸せな気持ちになっている。
「ドレスって・・・・・高いよ・・・・・・・」
「だから、高い物を選ぶなと言っただろ?」
店の自動ドアが開くと、店内にずらっと並ぶドレスが二人を迎えた。
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