ハニの戸惑い 36
「ただいま。」
「ただいま帰りました。」
グミとそう挨拶をして家に帰っても、迎えてくれるのはウンジョ一人。
スンジョの姿はまだなく、今日は大学に残って調べ物をして来ると言っていた。
「ハニちゃん・・・・・例の物の中を見させてね。」
「れ・・・・例の物?」
「ド・レ・ス。心配しなくてもいいわ。見つからないようにしてくるから。」
「ダメです、スンジョ君は鼻も良くて、私がシャンプーを変えても気が付くから、おば・・・お母さんのコロンの香りにも気が付きます。」
「そうよね・・・・・自分の息子でも、あの子のそんな能力が疎ましく思うわ。」
おばさんは、その日はそれっきり何も結婚式やドレスの事を言わなかった。
スンジョ君がその日帰宅したのは深夜近くで、私が眠りについてからだった。
でも、耳元で聞こえた言葉にあれが夢ではないと確信が出来た。
静かに開いたハニの部屋のドア。
もうずっとハニの顔を間近で見る時間もなく、スンジョにしたら我慢の限界だった。
「寝ている時ならいいよな・・・・・・・・・」
久しぶりにハニの唇にそっとキスをした。
温かく柔らかな唇は、このまま離す事が辛くなりそうだ。
掛けてある布団の中に静かに手を入れて、まだ大きくなっていないお腹にそっと触れた。
元気な子供で産まれろよ。
今は、お前のオンマは悪阻でアッパの匂いだけに吐き気をもよおして、抱きしめるどころかキスさえ出来ない。
話をしたくても、電話越しかメールでの会話しか出来ない。
お前はアッパが嫌いか?
アッパはお前が好きだぞ。オンマの子供だから好きだ。
だから、どうかアッパをオンマの傍にいさせてくれよ。
早く結婚式を挙げて、一緒のベッドで寝たいよ。
勉強で疲れた時に、オンマの笑顔を見ると元気になれるのだから。
スンジョは心の声で、ハニのお腹に宿る我が子に話しかけた。
その言葉は声に出していなかったのに、ハニには夢の中でしっかりとスンジョの言葉を聞いていた。
そのスンジョの願いの言葉は、ハニのお腹の中の子供だけではなく、少し開いているドアの隙間を離れた所から見ていたグミにも聞こえているように見えた。
ハニちゃんも、もし起きている時にスンジョの思いが判れば、自分が起きている時に大きくなって行くお腹に触れて欲しいのでしょうね。
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