ハニの戸惑い 44
待ち合わせの場所に行く途中、恋人同士なのだろうか看護学生と医学生の二人が仲良く手を繋いで歩いていた。
いいなぁ・・・・きっとあの二人は、大学を出て同じ病院に勤務するんだろうな。
「先生、患者のカルテをお持ちしました。」
「あぁ、ありがとう。そこに置いてくれるかな。」
デスクワークをしている医師の手が、看護師の手に触れると咄嗟にその手を引くと、机の上の書類がバサバサと音を立てて床に落ちた。
「すみません・・・・すぐに拾いますから。」
「拾わなくていいよ、オレは君とこうしたかった・・・・・・」
医師は看護師の手を引いて・・・・顔を近づけると、看護師はそっと目を閉じた。
__ バシッ!
「痛い!」
「妊婦が妄想しながら歩くな。転んだらどうするんだよ、おまけに涎まで垂らして。」
「スンジョ君!」
「遅れたから急いで来たけど、一緒になれて良かった。」
短くなった髪の毛を、そっとスンジョの手が掬い取った。
「髪、切ったんだな。」
視線を外さずに見つめているスンジョに、ハニは顔が赤くなっているのを誤魔化すように短くなった髪の毛を両手で触った。
「ジュリにさっき切ってもらったんだけど、似合わないかなぁ・・・・・」
「いや、長い髪が好きだったんだけど、短い髪も似合うよ。」
柔らかな風が吹いて、ハニの絹糸のような髪がフワッと揺れた。
「お腹が大きくなったから、手入れも大変で・・・・・どうせ結婚式も挙げられないものね。」
「そうだな。お前の悪阻で、予定していた結婚式もキャンセルしたからな。産まれて、手が掛らなくなったらお袋に預けて、新婚旅行を兼ねてどこかで二人だけの結婚式を挙げようか。」
「本当?」
「ああ、そのためにもオレは医師国家試験に一発合格出来るように、今よりももっと勉強を頑張るよ。」
ハニの手を引いて、いつも二人が座るベンチまで連れて行った。
「大丈夫だよ、スンジョ君なら大丈夫だよ。絶対に一発合格できるから。」
お喋りなハニが急に黙り込んだ事に、どうかしたのだろうかと様子を伺った。
「どこか具合が悪いのか?」
「そうじゃないの・・・・チョッとね・・・・・・」
教室での出来事だけはスンジョには言いたくなかった。
あの事は自分でも辛かったし、スンジョ君も嫌な思いをするよね。
医学部の勉強は大変だし、勉強に集中して欲しいからスンジョ君に余計な事を言いたくない。
もし私が看護学科に移ったら、きっとスンジョ君の近くで勉強をしていると思えて、こんな小さな悩みも気にしなくてもいいのかもしれない。
「今日、これから予定もないし出さないか?」
「何を?」
「婚姻届。」
ドキン!
「ハニには内緒にしていたが、お前が悪阻で苦しんでいる時に、親父たちとおじさんに承認になってもらっていた。後はお前が記入するだけだ。」
見開いたハニの大きな瞳から、ポロリと涙が流れた。
「これだけはお前と一緒に出したいと思っていた。」
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