ハニの戸惑い 45
スンジョがカバンから出した婚姻届を手に取り、何度も何度もハニはそれを頬ずりした。
「おいおい、涎を垂らして汚すなよ。」
「だって、本当の奥さんになったんだもの。」
「まだだろう。それを受け付けに出さないと、ただの紙切れだ。」
プッと膨れるハニの頬を、スンジョの指が突(つっつ)いた。
「次の方。」
受付窓口の人に呼ばれた。
「ほら、貸せよ。」
ハニの手から届け用紙を取り上げると、その反対の方の手でハニの手をギュッと握った。
「行くぞ。」
コクンと頷いたハニは、スンジョに腕を引かれて窓口に一緒に向かった。
「婚姻届ですね。記入漏れがないか確認をしますので、お待ちください。」
受付けの人はいかにも公務員の模範のような口調で、事務的な言葉でスンジョが差し出した届け用紙を受け取ったが、チラリと膨らんでいるハニのお腹を見た。
学校で離れた事だが、まさか婚姻届を出す時にそんな風に見られるとは思わなかった。
無意識にハニは持っていたカバンでお腹を隠した。
受付けた人が席を立った時にスンジョはかがんでハニの耳元で囁いた。
「気にするなよ。オレ達は真剣に将来の相手だと決めての事だ。年齢が若くても、責任は取れるつもりだしハニのお腹が目立ってからになったのだって仕方がない事だろう。お前がオレの臭いにだけ反応していたんだから。」
スンジョに守られていると思うと、ハニはどんな事でも大丈夫な気がして来た。
「おめでとうございます。婚姻証明書です。」
本当にスンジョ君の奥さんになったんだ。
夢じゃないよね・・・・夢じゃ・・・・・・
「いっ!」
?
「お前、なんでオレを抓るんだよ。自分の腕を抓れ・・・・・・ぷっ!酷い顔。」
「どうせ私はブスですよ。」
「そうじゃないよ・・・」
気が付かなかった。
スンジョ君が、ポケットからハンカチを出して私の顔を拭くまで泣いていた事に気が付いていなかった。
「だって・・・・・嬉しくって・・・・・・」
スンジョは人目も気にしないで、泣いているハニを胸に抱いた。
「奥さん、これからはオレと子供をよろしくな。」
結婚式はしなくても、二人だけで届けをした事が嬉しかった。
知らない間におばさんたちやパパに承認欄に記名してもらっていた事が、家族にもこの結婚を認めてもらったと思えた。
「ここでゆっくりしていられない、行くぞ。」
「行くって・・・・これからどこに行くの?」
「ハニのお母さんのお墓。親父たちには今日届けを出すと言ってあるけど、ハニのお母さんにはちゃんと墓前に報告したいからな。帰りは星屑湯で泊まるつもりだ。」
親子二代で同じ所で、小さな命を授かった。
記念の宿で過ごす事が、ハニは嬉しくて仕方がない。
少し大きくなったお腹を庇いながら、ハニはスンジョの後ろを付いて行った。
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